この記事は、「日経ビジネス」Digital版に掲載している「日経ビジネスベーシック」からの転載です。連載コラムは「飯田泰之の『キーワードから学ぶエコノミクス』」。記事一覧はこちらをご覧ください。詳しい説明はこちら

 経済学の基本原理は、「人々はインセンティブに基づいて行動している」というものです。

 インセンティブ、というと偉そうですが、要は損得感情に基づいて動いているというわけです(「インセンティブ」そのものについては、日経ビジネスベーシックの連載から、こちらをご参照ください)。

 このように書くと、「ああ、やっぱり経済学は金銭的な損得だけを考える、非人間的な学問なんだね」と思われてしまうかもしれませんが、それは誤解です。損得勘定は、お金だけの話ではありません。

 経済学においては、「損」も「得」も、個々の人が持っている“主観的な評価”で決まると考えます。当然そこには心理的、社会的な損得も含まれることになるのです。そのなかで、今回は「損」について考えてみましょう。

 経済学において判断の基準となると考える費用・コストについて、経済学用語と日常用語の間にはちょっとした違いがあります。例えば、3000円の飲み会に出席するコストはいくらでしょう?

 「そんなの3000円に決まっているじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか?

飯田泰之(いいだ・やすゆき)
明治大学政治経済学部准教授
1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

 飲み会に参加するコストは参加費だけではありません。飲み会に参加せずに残業していたならば得られたであろう残業代、その時間を使って他のこと(デートなり、勉強なり)をしていたら得られたであろう便益……これらの全てを犠牲にした上、さらに3000円を支払ってあなたは飲み会に参加することになるのです。このように、ある選択の裏で犠牲になるモノ・コト・カネを含めた費用が「機会費用」です。

 ちなみに、経済学の入門編では、教師は必ず機会費用の話をすることになっています。

 それはなぜか。もちろん重要だからなのですが、それ以上に経済学者はこの機会費用の説明が大好きなのです。

 経済学の父、というとアダム=スミス(英1723-1790、主著『国富論』)と相場が決まっている…ような気がしますが、スミスの議論と現代の経済学にはかなりの距離があります。その著作も道徳や倫理に関する話題や、今日ではむしろ経営学に分類されそうな話も多く、いわゆる「経済学」という感じはうけません。数学的なモデルを立てて、そこから政策提言を導くという意味での経済学はリカード(英1772-1823)に始まるといった方がしっくりきます。