最も基本的というか教科書っぽい説明から紹介しましょう。名目賃金(賃金の額面)の硬直性です。契約期間がある程度長いことや、組合の交渉力があることから、賃金の金額はそう簡単には下がりません。このとき、デフレ(物価の下落)が生じたら何が起こるでしょう。企業にとっては自社の生産する財・サービスの価格下落は収益を悪化させることになります。しかし、賃金の額はそれに見合った分、すぐ下げることはできない。すると、企業は新規採用を抑制し、さらにはリストラを行うことでなんとか収益を確保しようとします。これがデフレ時の失業増をまねくのです。

 一方、インフレの場合にはこれと逆のことが生じます。販売する商品の価格上昇と同じだけ即座に賃金を上げるという企業は少ないでしょう。すると、いままでより高く売れるのに賃金はそこまで上げなくても良い……相対的に安く人を雇えるのだから、雇用は拡大することになるわけです。

トレードオフの関係

 以上のロジックを労働者側から見てみましょう。デフレ時には「安い物価といままで通りの賃金(これを実質賃金の上昇と呼びます)」という恩恵がある一方で、「失業確率の増大」という痛みが生じます。

 少しうがった見方をすると、失業の確率が低い人(公務員や大学教員、大企業の基幹従業員など?)がデフレを好みがちなのは、デフレ不況による失業の懸念が少ないからかもしれません。一方で、インフレ時には「物価は上がるが給料がそれに追いつかない(実質賃金の低下)」という痛みと「失業確率の低下」という安心がもたらされるというわけです。その意味では、インフレ政策は「クビの心配のない安定的な職に就いている人」から「不安定な雇用者と経営者・自営業者」への再分配になるわけです。