この記事は、「日経ビジネス」Digital版に掲載している「日経ビジネスベーシック」からの転載です。連載コラムは「飯田泰之の『キーワードから学ぶエコノミクス』」。記事一覧はこちらをご覧ください。詳しい説明はこちら

 今回は発展編として、「いかにも経済学」なキーワードを取り上げてみましょう。

飯田泰之(いいだ・やすゆき)明治大学政治経済学部准教授 1975年東京生まれ。マクロ経済学を専門とするエコノミスト。シノドスマネージング・ ディレクター、規制改革推進会議委員、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

 これまでのアベノミクスの主役といえばなんと言っても金融政策。金融政策と言えば、現在我が国の中央銀行である日銀が「2%のインフレ」を目標に行っている量的・質的金融緩和です。

 しかし、ここであらためて考えてみましょう。
 なぜインフレを起こすことが経済政策の目標になるのでしょう。

 あまりにもいまさらの話で、人には聞けない、なんとなくわかるような気がするけどスッキリしないという人も多いのでは? その基礎に「フィリップスカーブ(フィリップス曲線)」があるのです。

 安定的な経済のためにインフレが必要だ――この根拠として最も古典的な経験則が「フィリップスカーブ」です。元々は20世紀前半の英国のデータで「失業率が低いときには賃金額の上昇率が高い」という(ごく常識的な)関係が観察されるという、ある意味地味な実証研究です。しかし、同様の関係が物価上昇率(インフレ率)と失業率の間でも観察されることが発見されたことで1960年代以降の経済政策の主役中の主役に躍り出ました。

経済政策の主役、フィリップスカーブ

 インフレ率を縦軸に、失業率を横軸にとると右下がりの関係があることから「インフレは失業率を抑制する」という主張が盛んに行われました。実際、下図のように、1980年代以降の日本のデータでも「インフレ時には低失業」「低インフレやデフレ時には高失業」という関係が確認できます。

フィリップスカーブ
1982年以降の日本のフィリップスカーブ

 しかしそうなると、モノが安く買える、つまりは低インフレやデフレを望むならば、高い失業率を受容する必要がある。このこともフィリップスカーブは示しています。低失業と低インフレは両立できない……どちらかはあきらめなければならないというトレードオフ関係になるというわけです。

 さて、インフレと失業の間にこのような関係が成立する理由は何でしょう。実は「これで決定」と言えるような説明はまだ為されていないのです。