P&Gのプレジデント兼アドバイザーの桐山一憲です。2015年11月に、P&Gアジア統括責任者から現職に変わり、CEO(最高経営責任者)直轄でアジアの人材育成に取り組んできました。

 この連載では、P&Gというグローバル企業で30年以上にわたって過ごした経験を基に、「リーダーシップ」について自分が考えていることをお伝えしていきます。

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 グローバルに活躍するリーダーが取るべきビヘイビアーをまとめた「グローバルリーダーのABC」を説明してきました。Cは「Commitment」、Bは「Belief」。今回は「ABC」の最後のAをお話しします。Aは「Attitude」。取り組み姿勢です。リーダーはどんな姿勢を示すことが必要なのか、ご説明しましょう。

「グローバルリーダーのABC」

A ── Attitude (姿勢)

B ── Belief (信条)

C ── Commitment(コミットメント)

 グローバルで活躍する際、重要になるのが多様性への対応です。国によって人種も民族も宗教もカルチャーも考え方も違います。リーダーはその多様性を受け入れて成果を出していかなくてはなりません。

 それには、まず第一に固定観念を徹底して排除することです。

 日本人も米国人もヨーロッパ人もみんなそれぞれの国で生まれ、育ち、異なる宗教を信じ、異なるカルチャーに染まっています。日本人が日本人の、米国人が米国人の習慣やカルチャーをベースに「こうするのが当然」と決めつければ、それ以外の国の人のことは全く理解できなくなります。

 固定観念は多様性の問題に対応する時に障害になるだけではなく、ビジネスを進める上でも障害になり得ます。よく言う「過去の成功体験にとらわれる」というのも固定観念です。

 成功した体験というのは大事だし、それがあるのはいいことですが、その成功体験を勝ちパターンとして固定してしまえば、市場や消費者が変化する中で勝つことはできません。常に新しい気持ちで取り組む姿勢を持つことが大切です。

<b>桐山 一憲(きりやま・はつのり)氏</b><br/>ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー 米国本社 プレジデント兼アドバイザー<br/>1962年11月生まれ。85年、同志社大学商学部卒業後、P&G(日本法人)入社。90年、支店長ナショナルチェーン統括。92年、東京支店長。カナダ勤務や韓国勤務を経て、2002年、ノースイースト・アジア(日本・韓国)営業統括本部長。2005年、ジェネラルマネージャー グローバルスキンケア(勤務地:米国)。2006年、ヴァイスプレジデント グローバルスキンケア(勤務地:シンガポール)、2007年、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン 代表取締役社長。2012年、米国本社 シニアエグゼクティブオフィサー 兼 プレジデント-アジアパシフィック。2015年11月より現職  (写真=陶山 勉、以下同)
桐山 一憲(きりやま・はつのり)氏
ザ・プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー 米国本社 プレジデント兼アドバイザー
1962年11月生まれ。85年、同志社大学商学部卒業後、P&G(日本法人)入社。90年、支店長ナショナルチェーン統括。92年、東京支店長。カナダ勤務や韓国勤務を経て、2002年、ノースイースト・アジア(日本・韓国)営業統括本部長。2005年、ジェネラルマネージャー グローバルスキンケア(勤務地:米国)。2006年、ヴァイスプレジデント グローバルスキンケア(勤務地:シンガポール)、2007年、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン 代表取締役社長。2012年、米国本社 シニアエグゼクティブオフィサー 兼 プレジデント-アジアパシフィック。2015年11月より現職  (写真=陶山 勉、以下同)

 特にグローバルリーダーは日本のしきたりやこだわりは捨て去ってください。例えば「日本では黙って行動するものだ」とか「一を聞いたら、十理解しろ」などと言っても、そういうカルチャーで育っていないローカルの従業員には到底、理解できない話です。ビジネス上のしきたりで言えば、「サービス残業を強いる」ことなども日本ならではのことです。海外では通用しません。サービス残業などといったことも含めて「会社に奉仕するのは当然」といった思いがリーダーにあるとしたら大きな間違いです。

 母国のしきたりやこだわりを押しつけがちなのは日本人に限りません。米国人も米国流にこだわるし、ヨーロッパ人はヨーロッパ流を押し通したいものです。

 かつて、米P&Gも日本に進出した際、それで失敗ばかりしていました。「米国市場ではこれが受けた。このやり方が一番だから日本でもやろう」と押し通そうとしたのです。でも結局、うまくいかないことが多かった。

 固定観念を排除し、米国流のこだわりを捨てて日本の消費者や文化、商習慣を理解するようになってから、日本の従業員の心を開くことができるようになりました。そしてコミュニケーションが活発になり、結果、業績も向上していったのです。

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