デジタル工場と聞くとIoT(モノのインターネット)が思い浮かぶが、「IoTではなく『IT』と『OT』の両方が大切だ」とDMG森精機の森雅彦社長は指摘する。OTとは、工場の工作機械や人の作業をどう進めれば効率的かを人が考える「オペレーション技術」のこと。これがなければいくら機械のIT化が図れていても工場は動かない。特集で取り上げたGEの米国工場もこの点には気づいていた。工作機械のデジタル化は今、どこまで進んでいるのか。またそれが製造現場の未来をどう変えるのか。日独の現場に詳しい森社長に聞いた。

グローバル市場では工作機械のデジタル化が進んでいますが、日本の工場では思うように進んでいないように見えます。世界の製造現場をよくご存じの森社長の目から見て、日本の工場はどういう段階にあるのでしょうか。
森:世界の工作機械はデジタル化によって「1個流し」、すなわち「1個ずつの計測」がカギを握る世界になってきています。
1個ずつの計測とはどういうことでしょうか。
森:日本の現場では、月産1000~2000個、自動車業界では9000~2万個という単位で部品を作っています。部品メーカーは、自社で作った部品の全てにおいて寸法や表面の粗さなどを細かく計測することで顧客への品質を保証しています。大量に作る場合、1個ずつ計測するのでは時間がかかりすぎるので、あらかじめセットしたゲージ(測定機)の上に部品を載せるなどして、たくさんの量を流しても時間が合うようなやり方で計測しています。
ところが、航空部品や人体に埋め込むような人工関節、ロケット部品などの中には、月に1個も作らない時もあるけれど年に5~6個は作るようなモノもある。ドイツでは、日本のように大量に作るものが次第に無くなっているので、繊維機械とか印刷機械、化学機械とか航空機の部品など、いろいろなものを月に10個くらいずつ作っているような現場があります。複数の種類を流さなければならないので、1個ずつ測るにしてもマニュアルでは時間がかかりすぎる。1個の部品に付き200~300カ所くらいを計測する必要があるからです。
そこで活躍するのが、デジタルの三次元測定機で測る方法です。複数の部品が1個ずつ流れてきたとしても、瞬時に測ってデータとして記録できます。
製造業の基本は「良く測る」
森:三次元測定機で測る最大のメリットは、測定機で測ったデータをリアルタイムで加工機にフィードバックできること。「設計通りに削ったはずだけど熱変位が起きて変形したので、さらにここを削る必要がある」とか、「工具磨耗が進んでいるから工具を交換しよう」とかいう判断をより繊細にできるようになります。その結果、部品の精度が高まるわけです。
ところが日本では、まだ部品のロットが多いので必要ないということもありますが、このやり方があまり取り入れられていません。三次元測定機を搭載した機械は、10件の鉄工所が導入している機械のうち日本では10~15台、一方のドイツでは20台くらいでしょう。
どちらが良いか悪いかというより、モノ作りの文化が違うのです。
工作機械というと切削の方に目が行きがちですが、実は計測が重要なのですね。
森:はい。計測というのは面白くて、さまざまな種類があります。取り付ける場所で言うと、機内、機側、オフラインなどがあり、計測手法で言えば、直接触って測るものから超音波やカメラで測定するものもあります。寸法だけでなく表面の粗さを見たり、表層のマイクロクラック(微細なひび割れ)を見たりもします。
当社にとってはそこが付加価値になる上、お客様にとっても部品の寿命が延びるのでメリットがある。ウインウインの関係になるのです。
良く測る――。製造業の一番重要なところは「計測工学」だと思っています。弊社が2010年にソニーマニュファクチュアリングシステムズから計測機器事業を買収し、マグネスケールを子会社として設立した狙いもそこにあります。
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