前に出て、市場を知った上で、失敗のスピードを上げよ!

 そんな津賀氏もまた、失敗を許す文化に言及した。

 「どちらかと言えば、失敗するまで続かないということの方が多い。個人として、もっともっと高い目標でやり遂げてもらいたいですね。失敗を許さないなどという文化は私たちにはありません。何か失敗をしたから降格したという話も聞きません。言っているのは『失敗のスピードを速めてほしい』ということです。新しいことをやろうとすれば、必ず失敗します。それはいいのです」(津賀氏)

 「問題はスピードです。慎重はいいけど、ゆっくり進めて、それで失敗していたのでは永久に成功できない。どんどん失敗すればいい。人間は失敗から多くを学ぶものです。だから失敗のスピードを上げる。それがニッチで成功する鍵だと思うし、今ニッチなマーケットを大きなマーケットにする術だとも思っています。ただ、独りよがりな失敗はダメです。お客さんや街の声を聞く姿勢がなければ、意味がありません。開発者が、研究所などの奥に引きこもっている時代は終わりました。そういう人こそ前線に出て、営業と一体となってニーズを拾っていかなければいけないのです」(津賀氏)

鼎談を終えて

左から三井不動産の菰田正信社長、旭硝子の島村琢哉社長、パナソニックの津賀一宏社長
左から三井不動産の菰田正信社長、旭硝子の島村琢哉社長、パナソニックの津賀一宏社長

 3名の経営者は、分野は違えども、その眼差しは驚くほど同じ方向を見ている。従来の成功体験を自ら否定して、新たな成長機会を貪欲に模索し、まだ見えない地平線に向かって着実に手を打っている。

 入れ物ではない街づくりをする三井不動産、未来のマーケットニーズからバックキャストする旭硝子、可能性の高いニッチマーケットで圧倒的なポジションを取ろうとするパナソニック。彼らは、大企業として培ってきたノウハウやリソースを使って、新しい挑戦を始めている。

 愚直に顧客のニーズを先取りし、そのさらに先すら見越して準備し、提案する。競争相手の少ないブルーオーシャンを常に探す。そのための体力と陣容を整え、技術を磨く。決して現状に安穏とすることなく、失敗を恐れずに変化のスピードに見合う速度で先に進む。

 顧客をリードし、顧客とともに歩むというビジネスパーソンとしての基本を徹底しているようにも見える。そして、この3社が一緒にビジネスを行えば、大変な相乗効果があるに違いないと、強く感じた。

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