旭硝子の島村琢哉社長もまた、従来の延長線上に会社があることを否定する。30年後の社会のニーズを予測し、そこからバックキャスト(未来のある時点に目標を設定しておき、そこから振り返って現在すべきことを考える方法)して自分たちの持てる強み=要素技術を活かす道を考える。そんなふうに発想を変えることが大事だと言う。
島村琢哉(しまむら・たくや)氏
AGC旭硝子社長。1980年、旭硝子入社。2003年、アサヒマス・ケミカル(インドネシア)社長に就任。2010年、旭硝子執行役員化学品カンパニープレジデント、2013年、常務執行役員電子カンパニープレジデントを経て、2015年1月より現職。チームプレーを重視し、社員に「最高のOne Teamを作るために、自ら考え、行動してほしい」と常に語りかける(写真:北山 宏一、以下同)

 「未来のマーケットニーズを想像し、それに応えうる製品を実現できる素材はどのようなものかを考え尽くし、そのための技術開発を今からやっていくわけです。私たちは素材メーカーなので、どうしても長いレンジで物事を考えていかなければいけないという宿命があります。そこをいわば逆手に取って、未来のニーズを先取りしようというわけです。それが、私たちが考えるイノベーションです」(島村氏)

 これまでは、「こんなガラスがほしい」と言われて、そのニーズを満たす商品の開発をしてきた。そして、「これでいかがですか?」とお伺いを立てて、「もう少しこう……」などと言われて改良する。顧客のニーズやスペックに合わせた商品開発をしていればよかった。それに愚直に取り組むことで、ビジネスが右肩上がりになった時代が長かった。

 もはやそうした時代ではないが、それでもその習慣が抜けない。これもまたイノベーションのジレンマだろう。

 「もはやそれではいけない。顧客がやりたいと思っていること、実現したいと思っていることに対して、素材メーカーとしてどのような価値を提供できるかを提案し、ある意味、顧客と共同で新たな価値を創造していく。そのためには、冒頭に言ったように、顧客を飛び越え、未来の社会が持つであろうニーズを予測することが必要な時代なのです。そうすることで、ようやく顧客との真の対話が成り立つのです」(島村氏)

 そのためには、目先のビジネス、売り上げを追いかけつつも、社員一人ひとりが大いに勉強することが求められる。顧客から答えが得られるわけではない。答えは自分たちで見出し、顧客に提案していくしかないからだ。

 「たとえば、従来は板ガラスの生産技術とか有機合成技術といった単一技術ごとに、メーカー起点で開発を進めてきたわけですが、今後は、たとえばユーザーの手触り感などをイメージした表面改質の技術といった、いわば、ある顧客価値や機能を実現するための技術開発が必要だと思っています。また、最終ユーザーのニーズを明確に意識し、新たな用途を見出すことも必要です。これを従来の『プロダクト・マーケティング』に対して、『アプリケーション・マーケティング』と呼んでいます。素材メーカー自らが、アプリケーションを提案していくわけです」(島村氏)