成功体験の呪縛から抜け出させるのもトップの仕事
ベンチャー企業の面々は、それぞれに自分の使命を持ち、自分が思う価値を生み出し、社会に提供しようとしている。翻って、資生堂の社長に就任して4年が経った魚谷氏は、今、どんな世の中を作ろうとしているのだろうか。
資生堂の魚谷雅彦氏(以下、魚谷):私の喜びは、簡単に言えば、多くの人が喜んでくれることだと思っています。働いている人たちが、楽しそうに誇りを持って働いている。お客様も、心の底から商品やプロモーションを気に入ってくれている。そんな姿を見るのが無上の喜びです。

資生堂 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO。1954年、奈良県生まれ。同志社大学卒業後、1977年、ライオン入社。1983年、コロンビア大学経営大学院でMBA取得。1991年にクラフト・ジャパンに入社。同社代表取締役副社長に就任し、日本での事業の統括責任者を務める。1994年、日本コカ・コーラに入社し、取締役上級副社長 兼 マーケティング本部長就任。 「ジョージア男のやすらぎキャンペーン」をはじめ、日本発のマーケティング発想で「爽健美茶」「紅茶花伝」などのヒット商品を多数手がける。 2001年に日本人としては26年ぶりとなる同社代表取締役社長に就任。2013年4月に資生堂のマーケティング統括顧問に就任。2014年4月より同社執行役員社長、2014年6月より現職。 リーダーには、「コミュニケーションをとりながら人をインスパイアする能力」が必要だと語る。
資生堂は典型的な日本企業です。歴史もありますし、ある意味で日本を代表する企業だと思います。こういう会社が日本国内のみならずグローバルに発展し、多くの人に貢献できるようにならなければいけないと考えています。
しかし、私が社長に就任した当時の資生堂には、初期のイノベーション100委員会で明らかにされた“イノベーションを阻む壁”がたくさんありました。その壁を取り除き、経営自体に革新をもたらすこともイノベーションであるわけですよね。環境変化に鑑みて、自分たちの行動変革や事業変革ができるような組織を作るのが自分のミッションだと思い、この4年間やってきました。
過去を振り返れば、流通業界に大きな変化が起こり始めた時に、資生堂は強い成功モデルを確立したのです。化粧品専門店をネットワークする、チェインストアの仕組みです。それは確かに強みでした。しかし、その横で、今では当たり前になっているドラッグストアというものが胎動し始めていたのです。
資生堂はその兆候に気付いてはいましたが、過去に強烈な成功体験があったために、対応が後手に回ってしまったのです。例えば、私の前職のコカ・コーラでは、私が入社した頃は、コンビニエンスストアは敵でした。自販機と競合してしまうからです。
そうした時期の組織は、イノベーションの芽を摘んでしまいます。従業員の心にも影響します。目が曇るのです。破壊的なアイデアの価値も認められません。すると、若い世代の人たちを中心に、「まあ、いいか」という気持ちが蔓延する。これが大企業病だと思います。諦めモードなわけです。
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