資生堂を蘇らせた大変革は、ベンチャースピリッツとマーケティングの合わせ技

 資生堂は2014年、それまでマーケティング統括顧問であった魚谷雅彦氏を初めての外部招聘の経営者として迎えた。それから数年の間に、資生堂の業績はV字回復を果たした。2017年度、過去最高売上・利益を大幅更新。魚谷氏は一体、何を改革したのだろうか。

資生堂の魚谷雅彦氏(以下、魚谷):日本企業のマーケティングプロセスは、商品開発をする人から販売現場まで次々にバトンタッチをしていくのですね。全体を見て、ブランドづくりに責任を持っている人がいない。

魚谷雅彦(うおたに・まさひこ)氏
資生堂 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO。1954年、奈良県生まれ。同志社大学卒業後、1977年、ライオン入社。1983年、コロンビア大学経営大学院でMBA取得。1991年にクラフト・ジャパンに入社。同社代表取締役副社長に就任し、日本での事業の統括責任者を務める。1994年、日本コカ・コーラに入社し、取締役上級副社長 兼 マーケティング本部長就任。 「ジョージア男のやすらぎキャンペーン」をはじめ、日本発のマーケティング発想で「爽健美茶」「紅茶花伝」などのヒット商品を多数手がける。 2001年に日本人としては26年ぶりとなる同社代表取締役社長に就任。2013年4月に資生堂のマーケティング統括顧問に就任。2014年4月より同社執行役員社長、2014年6月より現職。 リーダーには、「コミュニケーションをとりながら人をインスパイアする能力」が必要だと語る。

 日本企業のマーケティングプロセスで偉いのは、圧倒的に商品開発部門なのです。だから、どうしてもプロダクトアウト型になってしまう。ややもすると、市場やお客様を見ていないこともある。

 まず、そこを変えました。「ブランドマネジャー」という仕組みを取り入れたのです。その経験を積んだ人材を社外からかなり採用しました。

 「100人外部から採用します」と宣言し、その話が新聞に載った翌日は大変でした。社内が大騒ぎになったのです。自分たちが用なしになると思ったのですね。もちろんそうではありません。両方の力を組み合わせる座組みをしたかったわけです。その仕組み、ブランドユニットのマーケティングが功を奏しました。

 もう一つは営業です。日本の営業は根性で数字を達成するという側面が強い。そうではなく、どのアカウントのどの店に、どのブランドをどれだけ販売するのか。その積み重ねが重要なわけです。

 そのために在庫がこれだけ必要だから、結果としていくら出荷するというふうに決めないといけない。セルアウトと言いますが、まずはお客様に何をどれだけ売るのかを考えてほしいと言いました。

 営業もマーケティングなわけです。お店ごとの立地によって、お客様のセグメントによって、どんなブランドがどれだけ売れるかは、商圏調査を行えばある程度見えてきます。そういうことを勉強して、実践してほしいと言いました。一貫してマーケティングの導入を図ったわけです。

 前者は資生堂本社で、後者は販売会社です。長い間、この体制で来たわけですが、この間に壁ができてしまっていました。そこで両社を統合しました。物理的にも同じフロアに座ってもらいました。情報交換も密になり、動きも早くなりました。さらに、ブランドの「選択と集中」を進め、国内で注力するブランドを明確にしました。そこに徹底して投資をしたのです。

 全体に、「イチガン活動」という名を付けました。役員も工場の人間も、皆市場に出ろと号令を掛けました。イベントっぽいですが、皆でお客様に意識を集中する。お客様のために仕事をするという意識を持ってもらう。一体感が出ましたね。

 企業の経営者は、規模にかかわらず、自分が新たにどれだけの価値を生み出せるか、そこが大事だと思っています。転職してどこかのポジションに入る場合も同じで、担当する事業が、例えばこれまで年3%で伸びていた。自分が採用されて、3%のままだったら意味がないわけです。自分がそこで価値創造をする結果として、その3%を5%とか10%にしなければいけないわけです。