左から吉村氏(第27回に登場)、阪根氏、魚谷氏、森川氏(第27回に登場)、溝口氏

 「イノベーション」という言葉が注目され始めてから久しいが、実現に苦慮している企業は少なくない。何がイノベーションを妨げているのか。トップにはどのような意識が必要なのか。

 4年前にCEOに就任し、資生堂の業績を立て直した魚谷雅彦社長。そこに、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの阪根信一社長、エボラブルアジアの吉村英毅社長、FiNCの溝口勇児CEO、そしてLINE創業者にして現在C Channelの代表である森川亮社長という、日本のベンチャー企業を代表する面々が揃った今回の「イノベーション100委員会」(※)。魚谷氏と次の日本を担う風雲児たちに自由に語り合っていただいた。

ベンチャー企業の経営者に必要な「覚悟」という名の胆力

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの阪根信一氏(以下、阪根):破壊的なイノベーションを興していくためには、きっかけとなるアイデアだけでなく、そのアイデアを実現するためのアイデアがたくさん必要になります。そうしたアイデアを得るための一番のカンフル剤は“危機感”だと私は思っています。ピンチに陥ったときほど、よいアイデアが浮かぶものだからです。

阪根信一(さかね・しんいち)氏
セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ 代表取締役社長。1999年、アメリカ・デラウエア大学 化学・生物化学科 博士課程修了(Ph.D.)。 卒業後はI.S.T取締役、CEOを経て、2008年、スーパーレジン工業社長に就任。2010年、I.S.TのCEOを退任し、2011年、Seven Dreamers Laboratories, Inc. President & CEOに就任、2014年より現職。 これまでに、カーボンゴルフシャフト、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」などを開発し、世界一イノベーティブな会社を目指している。

 これは開発だけでなく、経営においても同じです。だから、経営者や各部署のリーダーは常に、危機感を持っていたほうがよいのです。覚悟です。ただし、それと同時に必要なのが、成功報酬ですね。“飴と鞭”ではありませんが、“ボーナスやストックオプション”という成功報酬という名のカンフル剤も重要です。

FiNCの溝口勇児氏(以下、溝口):私たちの会社はまだこれからの会社なのですが、多くの方々のご支援もあり、今日までに大きな資金を調達し、プラットフォームを作ってきました。

溝口勇児(みぞぐち・ゆうじ)氏
FiNC 代表取締役社長 CEO。 高校在学中からパーソナルトレーナーとして活動。延べ数百人を超えるトップアスリートや著名人のカラダ作りに携わる。数多くの新規事業の立ち上げにも携わり、数々の業績不振企業の再建を担う。2012年4月にFiNCを創業。あらゆるヘルスデータが集まるプラットフォームアプリ「FiNC」をはじめ、企業の働き方改革や健康課題をトータルで解決する法人向けサービス「FiNC for BUSINESS」などを手掛ける。「今はすべての机や家庭にコンピューターが行き届いたように、すべての人にAIによるパーソナルコーチを届けたい」。「Wellness&Beautyの新しい世界を作りたい」との夢を語る。

 数多くの角度からユニットエコノミクスの検証をしてきましたが、そこで分かったのは、損益分岐を超えて、毎年飛躍的に成長していくのには80億円ほどの投資が必要だということです。正直言えば、当初はこの半分以下で今の場所に辿りつけると思っていました。

 なぜそれだけの投資が必要だったか? 私たちは今、ヘルスケアプラットフォームアプリをお客様に提供しているのですが、アイデアを形にして、70点をもらえるアプリにすることはそんなに難しくありません。

 ただ、今の時代はアプリに限らず、あらゆる商品やサービスの質が上がっています。ですから70点のものは世の中に溢れているのです。そこから磨いて、磨いて、磨いて90点、100点にしないことには、実際には使ってもらえないのです。

 ちなみに、創業のタイミングで、これだけの先行投資が必要だと分かっていたら、私は挑戦することを諦めていたかもしれません。私の場合は無知だったからこそ、一歩を踏み出すことができ、それによって今の場所まで辿り着くことができました。

 多くの人を巻き込みながら、私はここまで走ってきました。だからこそ、今となってはもう立ち止まるわけにはいかない。信じてくれた支援者や仲間の期待に応えるためにも、例え何があっても、成功するまで絶対にやり切る。そう覚悟を決めたのです。

 ただ、無謀な挑戦ほど、競合は現れません。「あらゆるヘルスデータと、それに合わせた最適なソリューションを提供する日本発のプラットフォームを作る」という私たちの挑戦は、壁を越えてさえしまえば、 非常に大きなインパクトを社会に与えられると思っています。目の前にある分厚く、大きな壁を最後に越えられるかどうかは、経営者や経営陣の本当に諦めない強い精神と覚悟しかないと思っています。

※イノベーション100委員会
企業がイノベーションを興すための方法を探るために変革の思いを持ち、行動を起こしている企業経営者がイノベーション経営について議論する場。「イノベーション経営を進める大企業経営者が100人になれば、日本は再びイノベーション国家になる」との思いを持ち、経済産業省、株式会社WiL、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)が2015年より共同運営。