経済産業省、株式会社WiL、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)が共同運営している「イノベーション100委員会」では、自社からイノベーションを興すために変革の思いを持ち、行動を起こしている企業経営者による、座談会やインタビューでのイノベーション経営についての議論を2015年から続けている。その結果見えてきたのは、「変革を起こす経営者の姿」であり、彼らが共通でぶつかる壁である「5つの課題」、そして課題を乗り越えるためにこだわった思いや行動、「5つの行動指針」である。
 本連載では、2017年の5回の座談会に参加した14名の経営者のイノベーションへの思いと、変革に向けた挑戦をお伝えしていく。

 今回お届けする第2回座談会(開催は今年1月31日)の出席者は、スノーピークの山井太社長とユーグレナの出雲充社長の2名。スノーピークはキャンプ・登山・アパレルを中心としたアウトドアブランド。ユーグレナはミドリムシの研究開発から製品の販売までを手掛けるベンチャー企業として既に知名度が高い。独創的な2人の経営者に、イノベーションを興すための『5つの行動指針』のうち、とくに力を入れている指針について聞いた。

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 新潟県燕三条に5万坪のキャンプ場を併設した本社を構えるアウトドアブランド「スノーピーク」を生んだ山井太氏。東京で働いた経験から、ブランドの社会的意義として「人間性の回復」を掲げた。アウトドアという“現場”からユーザーと交わり、徹底したユーザー目線で商品を開発し、ビジネスを展開する姿勢を貫く。

 「社長の仕事は会社の未来を創ること」と言い切る山井氏がとくにこだわるのは「行動指針1:変化を見定め、変革ビジョンを発信し、断行する」と「行動指針3:価値起点で事業を創る仕組みを構築する」だ。

社長をたくさん作ってイノベーションを興す

 山井氏は東京の外資系商社で働いていたが、「自分がやりたいアウトドアのスタイルを確立したい」と思い立って、新潟県三条市の父親の会社に転職。その後、オートキャンプ事業を立ち上げ、1996年に代表取締役に就任。社名を「株式会社スノーピーク」に改めた。それに先立つ90年には「The Snow Peak Way」というミッションステートメントを策定している。

<b>山井太(やまい・とおる)氏</b><br /> スノーピーク社長。1986年ヤマコウ(現スノーピーク)入社。1996年に社長に就任し、社名を創業者の山井幸雄氏が愛した谷川岳をイメージした「スノーピーク」に変更。ヤマコウ創業以来一貫した「自らもユーザーである」との理念から、社長自らが一番のユーザーとなり、徹底的にユーザーの立場に立ったアウトドア製品やサービスを提供する(写真:都筑 雅人)
山井太(やまい・とおる)氏
スノーピーク社長。1986年ヤマコウ(現スノーピーク)入社。1996年に社長に就任し、社名を創業者の山井幸雄氏が愛した谷川岳をイメージした「スノーピーク」に変更。ヤマコウ創業以来一貫した「自らもユーザーである」との理念から、社長自らが一番のユーザーとなり、徹底的にユーザーの立場に立ったアウトドア製品やサービスを提供する(写真:都筑 雅人)

 「経営者の最も大切な役割は、自社の企業理念を作ってそれを浸透させていくこと、加えて事業領域を定めることだと思います」(スノーピークの山井社長)。

 そして具体的な経営計画を作る。それ以外のことは極力担当者に任せるのが山井流だ。「私が社員にコミットするのは、我々の未来をちゃんと創るということだけです」。

 そのために山井氏は会社からよくいなくなる。Facebookに「旅に出ます。探さないでください(笑)」と書き残していなくなる。そんな、旅するような仕事を続ける。どこに出掛けるのか?日本各地を飛び回っているのだ。そして未来について考える。それが経営者としての自分の仕事だと言い切る。

 ベンチャー企業の経営者には、「新しい事業が作れるのは自分しかいない」という悩みが多い。そうした悩みに対して山井氏は、会社を細かく分社化することを提案する。それだけの数の経営者を生み出すためだ。

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