経済産業省、株式会社WiL、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)が共同運営している「イノベーション100委員会」では、自社からイノベーションを興すために変革の思いを持ち、行動を起こしている企業経営者による、座談会やインタビューでのイノベーション経営についての議論を2015年から続けている。その結果見えてきたのは、「変革を起こす経営者の姿」であり、彼らが共通でぶつかる壁である「5つの課題」、そして課題を乗り越えるためにこだわった思いや行動、「5つの行動指針」である。
本連載では、2017年の5回の座談会に参加した14名の経営者のイノベーションへの思いと、変革に向けた挑戦をお伝えしている。
大和ハウス工業の樋口武男会長は、2001年に社長に就任し、2004年からは会長兼CEOとして、2015年に創業60周年を迎えた同社の経営のかじ取りを続けている。創業者の石橋信夫氏から直接受けた薫陶を受け継いでいくことを、経営者として最も重視している。

大和ハウス工業会長/CEO(最高経営責任者) 1963年大和ハウス工業入社。2001年同社社長に就任後、2004年から会長兼CEO。専務時代に、創業者から赤字に陥った関連会社「大和団地」の再建を命じられ、社長としてリーダーシップを発揮し、2年目に黒字化に導いた経験を持つ。大阪交響楽団の運営理事長も務める。
「創業100周年に売上高10兆円」という創業者の夢の実現に向け、「アスフカケツノ(明日不可欠の)」をキーワードに掲げて、安全・安心、スピード・ストック、福祉、環境、健康、通信、農業という7つの分野における新規事業創出に積極的に取り組む。持続的な経営に向けて、樋口氏がとくに力を入れる2つの「行動指針」について聞いた。
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徹底した現場主義で世の中に役立ち、時代の先を読んで手を打つ
行動指針1_変化を見定め、変革のビジョンを発信し、断行する
大和ハウス工業は、創業者である石橋信夫氏の教えの継承を重視することで知られる。その教えとは、「何をしたら儲かるかという発想で事を興すな」というものだ。「そうではなく、『どういう事業が、またどういう商品が、世の中の多くの人の役に立ち、喜んでいただけるかが鍵だ』と教えてくれました。この精神を徹底していくことが、弊社がイノベーティブであり続けるために必要なことであり、また安定して成長していくために最も重要なことなのです。創業者の精神を徹底していくことが、大和ハウス工業がサステナブルな企業になれる一番大事なことだと考えています」(大和ハウス工業 樋口氏、以下同)。
そこで、同社で重視されているのが「現場主義の徹底」だ。創業者は伝聞というものを嫌った。「こんなものがあります」など生半可な情報を元に言うと、「お前、実際に見てきたのか!」というのが第一声だったという。
事業の革新はすべて創業者の現場主義から見出されたものだ。「ミゼットハウスの誕生も現場の知恵なのです。アユ釣りが好きだから釣りをしていたら、周りの子どもたちが夕方になっても帰らない。『帰って勉強せんかい』と言うと、『僕ら帰っても勉強する場所なんかない』と言う。『居場所もないくらいや』と言うので、この子らに勉強部屋を作ってやろうということで、ミゼットハウスを作ったのです。『確認申請がいらない』『11万円で売れる』『3時間で建つ』という条件で商品化しました。全国27カ所の百貨店で展示販売して、大ヒットしました。それから、お客さまの要望で、お風呂をつけたり、トイレをつけたりとバリエーションが増えていき、『スーパーミゼットハウス』になって、その後、現在のプレハブ住宅へと発展していったのです」。
一度商品が完成すると、それを市場に提案し、顧客の要望を分析して、その商品をリニューアルしていく。その思想は今でも守られている。その意味では、本業そのものがイノベーティブだと言えよう。さらに、全く新たな商品を求めてベンチャー企業の目利きをして投資をし、ともにWin-Winの関係を構築していくのが、大和ハウス流のイノベーションの方法論だ。
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