川崎:我々の落とし穴とも言えるのは、“プロダクトアウト至上主義”です。「こんなものができた」「こんなものができるから買ってほしい」。往々にそれがビジネスの基本でした。

 それを買ってくださる人たちがいたので、ビジネスは拡大してきたのですが、時代は変わってしまいました。お客様の課題、さらに言えば、社会の課題を解決できるものを提供しなくては、生き残れなくなってきたのだと思います。この点ではやはり、日本のメーカーは、海外、特に米国のメーカーに後れをとってしまっていると思います。

社会課題のテーマから落としていく時代

松本:まさに技術屋が陥りやすい罠ですね。自分ができることの中で考えてしまう。そうではなくて、社会課題のテーマから落としていくという考え方にしていかないといけない時代なのだと思います。

 できることではなく、「これはちょっと無理かもしれない」というチャレンジングな目標設定が必要です。だから、反対が8割にもなるわけです。そこから始めて、あとは必死に現存する技術を理想に近づけていく。下から積み上げるのではなくて、ゴールからバックキャストすべきなのだと思います。

川崎:そうしなければ、世の中が本当に期待しているレベルには届かないですね。

松本:よく、「私は一生懸命にやっています」と言います。確かにそうなのですが、そもそも目標設定が甘い。それではたいした結果は得られません。ところが、現場ではどうしても目標の引き下げをやりがちなのですね。

 私がフィットの開発責任者だったときは、社内の評価会議で、当時のトップに目標値を引き上げられました。弁解の余地もなく、マジックで、ぐっとグラフを書き換えられてしまうわけです。

 今でも、これは私にとって強烈な原体験となっていて、トップとなった今、それこそがトップの仕事だと理解することができました。どこを目指すのかを指し示すことが、一番重要な仕事ではないでしょうか。

(後編に続きます)