「世のため、人のため」、そして「自分のため」のアンチテーゼ

川崎:OKIは1881年創業ですから、今年で137年になります。電話機を国産で作ろうと興された会社です。その当時から、「進取の精神」が理念でした。その後、「伝える」「つなぐ」をキーワードに、文字を送るテレタイプライター、画像を伝えるファクシミリを開発し、さらに情報を伝えることで何ができるかという側面から、キャッシュディスペンサーやATM(現金自動預け払い機)を製造してきました。

 我が社はBtoBの会社です。創業以来ずっと、「進取の精神」をベースに、かなり革新的な仕事をしてきたという自負がありますが、最大のお客様であった日本電信電話公社、現在のNTTにリードされてきたという面もあります。そして、こうした進取の精神が、残念ながら、やや希薄になってきているというのが現状認識です。

松本:私たちの創業の理念は「生活の質を上げる」ですが、もう一つ大切にしている理念があります。それは、自分たちの存在意義として「メインストリームのものに対するアンチテーゼを常に追求する」というものです。

 独創性を発揮し、小さいけれど横綱を倒すといった、判官贔屓の日本人の共感性に訴えるような製品の開発にこそ燃えるという企業文化があって、お客様も私たちにそういうチャレンジを期待していただいているのではないでしょうか。

 私は、これを「異端の文化」と呼んでいます。そこを忘れてしまったら、ただの大企業。我々の存在意義はないとさえ思っています。

 「お客様第一主義」は、それを唱えない会社はないが、本田技術研究所にとっては、アンチテーゼの対象だ。

松本:決して、「お客様第一主義」を否定するわけではありませんが、お客様の言う通りのものだけを作って提供していても、意味がないと思います。お客様がまだ気づいていない先進的なものを提案して、課題解決に役立ててもらう。

 つまり、「お客様」よりも上位なものとして、「世のため、人のため」を位置付けています。その結果、例えばお客様が今求めているものとは違っていても、あえてこちらの考えを通します。後から時代が付いてくると信じるからです。そのレベルまでいかないと、我々が存在する意味がありません。

川崎:私たちから見ると、Hondaさんは「楽しいことをいつもやっている」というイメージがあります。

松本:本田宗一郎の言葉に、「自分がやりたいことをやれ」というものがあります。会社のために働くのではない。自分が実現したい夢、やりたいことに集中できれば、最高の加速力というか、突破力が生まれる。そこを常に目指しています。“The power of Dreams”。開発担当者の意志と強いこだわりが見えない製品は光らないと思っています。