松本:その戦略が正しかったということは、今日までに証明されています。しかし、そうした研究所の独立性も、やはり常にそれを意識していないと、年月とともに風化してしまうものです。

 日々の事業をオペレーションする本体からのプレッシャーもありますし、研究所内部においても、やはり、新しいものを生み出すのは苦しいチャレンジですから、少しずつ、進取の精神が削られていってしまう傾向があるのです。

 ゆえに、研究所のトップは、常に研究所の存在意義を発信し、イノベーションへのチャレンジを鼓舞していく、そういう役割を負っているのです。

効率とは真逆の文化が必要

OKIの川崎秀一氏(以下、川崎):つまり、Hondaさんは創業の時からすでに、生産性と創造性の両方を追求する“二階建て経営”をされていたわけですね。

川崎 秀一(かわさき・ひでいち)氏
沖電気工業代表取締役会長。1970年、沖電気工業入社。入社以来、20年あまり金融部門の営業畑を歩んだ後、NTT営業本部長、ネットワークシステムカンパニープレジデント、営業推進本部長などを経て、2009年に代表取締役社長に就任。2016年4月より現職。
座右の銘は、「誠心誠意」。好きな言葉は、京都の大徳寺大仙院住職の尾関宗園師による「気は長く、心はまるく、腹立てず、人は大きく、己は小さく」。

松本:現在のHondaには、ホンダジェットやアシモという事業もあります。こうした革新的事業を世に出すまでには、それぞれ30年ほどの時間を要しています。どうしても、そのくらいのスパンで考えないと未来は見えてこない。だから研究所内では、「本田技研に将来、何が起きても困らないような技術や商品を仕込んでおくことが我々のミッション」だと言っています。

 松本氏は本田技研の専務取締役でもある。これは、研究所を守るための“鎧(よろい)”だと言う。

松本:ただ、ビジネス環境が悪化し、経営状況が危うくなると、どうしても効率性を重視する傾向が強まります。新たなイノベーションを生み出していくという研究開発の領域では、あえて無駄を許容しなくてはいけない。

 つまり、効率とは真逆の文化が必要となるのです。そのため、実現に向けて時間もリソースもかかる、革新的な技術研究へのチャレンジについては、本田技研から干渉されないように、できるだけ暗闇の中に隠しておくというのが、ある意味、研究所のトップに必要な態度であるわけです。

 事業環境が厳しくなればなるほど、事業部門からすれば、「自分たちはPL(損益計算書)で必死になっているのに、研究所は何をやっているんだ」という思いが募り、事業と研究は一体であるべきだという気運が高まってきます。

 しかし、そこを許すと、目の前のことに必死になってしまい、ロングレンジのことをやらなくなってしまう。これが、日本のメーカーが弱くなってしまった最大の理由の一つではないでしょうか。だから、そうした気運に抗い、収益が厳しい中でも、どうやって将来の種まきを担保していくかがHondaの研究所のトップとしての自分の役割だと思っています。