横山:一つは、人事異動が評価についての最大のメッセージだと思っています。役員や管理職への登用、従来であれば、あり得なかったポジションへの異動。あるいは従来にはない抜擢などです。こうしたメッセージは、経営が何に注目をしているのか、これから何に注力しようとしているのかということも伝えてくれます。
また、評価が往々にして定量的な物差しだけで行われる場合がありますが、結果だけでなく、その過程もチェックすることでしっかりした評価ができるのではないかと思います。「過程のチェック」も経営からの大きなメッセージだと思います。
必要なのは付加価値、創意工夫、そして愛
角倉:社員、皆が新しい価値を作ることに注力しているという、そういう会社にしたいなと思います。かつて「研究開発型企業になる」と言っていた時期がありますが、その気持ちは今も変わっていません。
どういうことかと言えば、「自分の仕事に付加価値をつける」ということです。右から回ってきたボールを単純に左にパスするのではなく、「何か一つ価値を“オン”して次の人に渡そうじゃないか」というわけです。
それを社員一人ひとりが心掛けていれば、チーム、そしてグループ、そして会社全体のアウトプットは必ず大きくなっていく。付加価値を“オン”する。そうじゃないと自分の存在意義がないですよと言っています。そういう意識を持てれば、100回に1回くらいは大きなイノベーションを生んで、ジャンプできると思っています。
横山:当社には40万人の社員がいますが、一人ひとりが改善の気持ちを持ってほしいと思っています。もちろん、新しい事業分野を生み出す人も必要なわけですが、大多数の人には既存事業の革新をそれぞれの仕事の中でやってほしいのです。
そうした日々の改善、日々の創意工夫が、結果として企業価値の向上につながると思います。直接的には社内の効率化につながるわけですが、それによって、お客様の利便性向上にもつながります。だからこそ、それを一人ひとりに心掛けてほしいのです。社員40万人が日本全国で創意工夫をして、それが足し算になって表に出てくれば、ものすごい化学変化を起こせると思います。
そのためには、社員が会社を愛しているかというのが、実は最も大事な観点だと思っているのです。この辺が日本企業には薄れてきているのではなかろうかと、そこが心配です。社員に愛されない会社は、延命できないと思います。社員が満足して、会社と共に同じ方向感を持って働いていくと、気持ちがお客様に向かっていく。それが、イノベーションを興すことにもつながると考えています。
イノベーションとは新しい需要を作ることであり、その基点には社会的使命の全うが必要であると主張される角倉社長は、「変革と成長」のために、組織を変え、方向性を明確にした。自らも研究者であるがゆえに、ゼロから1を生み出すことの重要性を心底、理解されている。
一方、創業が前島密まで遡る日本郵便は、日本で最大の社会インフラを有している。前島密が掲げた社会的使命がデジタル社会の到来でより進化していくなか、スタートアップとの連携に社長が自ら立ち会い、21世紀に必要とされる新たな社会インフラの構築に向けて大きく舵を切っていこうとされている。
両社長に共通しているのは、自前主義により成長の機会が削がれるリスクを冷徹に見極め、多様性を味方にしようと着実に手を打っておられることであり、実に愉快な対談だった。
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