此本:DXについては、何をすればいいか分からないというお客様と、何をすればいいかはだいたいイメージできるのだけど、どうすればいいかが分からないというお客様がいると思いますが、前者は確実に減ってきていると思います。「レガシーなビジネスモデルを今のテクノロジーを使えばこういうふうに変えられるはずだと思う」というところまではイメージできるお客様が多くなってきました。

 それだけリテラシーが上がってきたわけです。ただ、いわばこれまでのビジネスモデルにおける既得権益を守りたいと思う、ステークホルダーの皆さんがいるので、多くの場合、変革はその方々とのさまざまな利益相反を起こすことになります。

 あまり表に出てきていませんが、その調整業務が非常に難しい。社内で守旧派と改革派が対立するという構図です。敵は本能寺にあり、という感じですね。

 「軟着陸」という言葉がありますが、いわば劇薬の副作用も勘案しながらゆっくりと調整しながら離陸することも大切で、そうした観点からの相談、つまりトランスフォーメーションの進め方についての相談も、実際、増えています。

 

 DXの目的は、コストダウン、CX(カスタマー・エクスペリエンス)、つまり顧客満足度の向上、さらにビジネスモデルそのものの破壊的創造の3つに集約されると思います。

 とりわけ、三番目の目的はまさに劇薬であり、既存のビジネスモデルに関わるスタッフからみれば死活問題です。そこをどう調整して進めるかというのは、まさに経営の腕の見せ所になるのです。

 また破壊的創造によって新たに作られるビジネスモデルは、当然かつてのものを劇的に効率化したものになりますから、利益率は高まっても事業としての売り上げや利益はダウンサイズされることもあります。

 そのため、今進んでいる多くのDXは、コストダウンやCXの向上のようにどちらかというと穏当なアプローチの方が主流で、破壊的創造に相当するDXはまだ少ないと思っています。

水田:マーケットそのものが小さくなってしまう可能性もあるわけですね。

此本:生みの苦しみですね。DXの結果、産業構造がディスラプト(破壊)されると無駄な部分が一気にそぎ落とされますから、余剰な生産余力が生まれる可能性もあります。その余力を使って、もっと付加価値の高い新しい商品やサービスを生み出していく。こうした好循環につながるまでは一時的な痛みを経験することもあるかもしれません。

社会のニーズに対応した、それぞれのトランスフォーメーション

吉澤:モバイル通信業界での市場転換という意味では、特に数年前まで激しかった高額キャッシュバックでの顧客獲得競争に陥ったことを忘れられません。

 これは健全な状態ではなく、私たちもあれで疲弊しました。この手の競争では、市場は全く拡大しません。目指すべき競争というのは、そうではないと思います。

 私たちで言えば、エリアの広さとかサービスの質、アフターフォローなど、お客様にとっての価値をいかに向上させられるかという価値競争にシフトさせていかなければいけません。

 3年くらい前から、ようやくその方向に舵を切りました。そしてこれからは個人のお客様に加え、パートナー企業の顧客の価値を向上させるお手伝いにも一層力を入れていきたい。

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