パーソルの水田正道氏(以下、水田):業界は違いますが、その点は共通認識のような気がします。言ってしまえば、これからの10年が正念場なのだと思います。これまでの10年に比べれば、市場が劇的に変化していく10年になるからです。

<span class="fontBold">水田正道(みずた・まさみち)氏</span><br />パーソルホールディングス取締役社長 CEO。1984年、リクルートに入社。創業者の誘いを受け、1988年にテンプスタッフに転籍。常務、副社長を経て、2013年6月にテンプホールディングス(現パーソルホールディングス)およびテンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)代表取締役社長に就任し、現在に至る。現場第一主義を貫き、社長就任後も積極的に営業に同行する。座右の銘は、「積小為大」。
水田正道(みずた・まさみち)氏
パーソルホールディングス取締役社長 CEO。1984年、リクルートに入社。創業者の誘いを受け、1988年にテンプスタッフに転籍。常務、副社長を経て、2013年6月にテンプホールディングス(現パーソルホールディングス)およびテンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)代表取締役社長に就任し、現在に至る。現場第一主義を貫き、社長就任後も積極的に営業に同行する。座右の銘は、「積小為大」。

 それこそスマートフォンの普及のスピードは、私たちの想像以上です。求人といえば、かつては求人誌が主流でしたが、すでに紙媒体はその使命を終えたとさえ言えそうな状況です。そうした変化が今、あらゆる業界で起こっています。まさに性根を据えたイノベーションが必要なのです。

 なかでも衝撃的だったのは、野村総研さんがオックスフォード大学のオズボーン准教授らと共同で行った調査研究です。「今後10年から20年で、日本の労働人口の約49%が就いている職業がAIやロボットなどで代替可能になる」というあの推計です。これは大変大きな問題提起だと思います。その通りになるかどうかはもちろん分かりませんが、この流れを止めることはできないと思います。

 私たちの創業ビジネスである派遣事業の中心は、事務派遣です。事務に従事する労働人口は、現在600万人強です。その市場がもしなくなってしまえば、事務派遣という仕事そのものが失われてしまいます。そこに大きな危機感を持っています。

 また、私たちの派遣事業は、非正規雇用を扱っているわけで、格差の象徴として、どうしても批判の対象ともなってしまうものです。それだけ日本の労働市場はまだまだ保守的です。そうした社会と今後どのように共生していくかも、私どもの課題です。

 さらに課題は山積みです。労働人口、特に若年労働人口がどんどんと減っていきます。その部分をどう解決していくのかも今後の大きな課題です。

DXはイノベーションの最重要テーマであり、劇薬でもある

 二つの問題が指摘された。ひとつは人口の減少から必然的に起こる極端な労働人口の減少。これに対処するための有効な手段が「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」だ。

 しかし、今度はその結果、現行の仕事の多くがAIやロボットに取って代わられてしまうという不安が巻き起こっている。これは果たして、二律背反する課題なのであろうか? この問題を解決することが、もしかしたら今求められる最大のイノベーションになのかもしれない。

吉澤:ビジネスモデルや従前のやり方を変革したいという社会ニーズを切実に感じています。そのために私たちに何ができるのか。

 第一次産業を例に取ると分かりやすいでしょう。担い手が減り、高齢化が進むなか、例えば海苔や牡蠣の養殖では、日に何度も水温や潮の流れなどを船で確認しに行かなくてはいけない。それをリアルタイムで遠隔監視できるようにするだけで、生産性はかなり向上します。苦労が減れば、担い手も増えるかもしれません。

 そうしたIoTの恩恵というものが、第一次産業に限らずさまざまな業界で、ここ数年、非常に顕著になってきました。企業の生産性を上げることが、一部の先進的な会社や産業だけでなく、社会全体で急務な時代になったからです。そうやってDXを軸に、パートナーとともにソリューションを考え、ビジネスを展開していく。まさにDXの時代は「協創」の時代だと思っています。

次ページ 社会のニーズに対応した、それぞれのトランスフォーメーション