新たなリスク要因となりかねない共同経済活動
首脳会談で打ち出された共同経済活動の協議開始の合意は、別の観点からみても新たなリスク要因となりかねない危うさを抱える。今後の平和条約交渉を進める前提条件となる恐れがあるからだ。
プーチン大統領はこれまで、平和条約の締結には「高いレベルの信頼関係」が不可欠とし、信頼醸成のひとつの方策として、日ロ間の大規模な経済協力を挙げていた。一方の日本側は今回、安倍首相が提案した「8項目の対ロ経済協力プラン」に基づき、官民合わせて80件、総額で3000億円規模に上る日ロの合意文書をまとめた。
ところが、プーチン大統領は来日直前、読売新聞と日本テレビのインタビューで、「例えば南クリール(北方領土)を含めた大規模な共同経済活動」が平和条約を準備する条件づくりに寄与するかもしれないと語っている。来日時の合意事項を事前に踏まえたうえでの発言といえるだろう。
つまりロシア側は今後、日本が4島でどれだけ共同経済活動に関心があるのかを注視するだろうし、仮に活動条件や形態をめぐる事前調整が長らく難航すれば、平和条約締結に向けた「高いレベルの信頼」が醸成されていないと言い続けることもできるわけだ。
大統領は来日時の共同記者会見で、ロシアは1855年の日魯通好条約で北方4島を日本に「引き渡し」、第2次世界大戦後にこれらの島々を「取り戻した」と言明した。両国の国境線を択捉島とウルップ島の間と定めた通好条約は日本側が「北方4島は日本固有の領土」と主張する根拠になっているが、大統領は当時から「ロシアは自国に帰属するとみなしていた」として、日本の歴史認識にも鋭くクギを刺した。
日ソ共同宣言についても「(主権の問題を含めて)どのような原則で2島を日本に返還するのかは分からない」と改めて強調。日米同盟に基づき、米軍が駐留する懸念も領土交渉の障害になっていると示唆している。平和条約締結交渉の前途はかなり厳しいと予測せざるを得ない。
ロシアが強硬姿勢を貫く背景には、米国でロシアに融和的なトランプ政権がまもなく誕生し、原油価格も底打ちしたことで、日本に接近する動機が薄れたという事情もあるのだろう。
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