早くも浮き彫りになった日ロの見解の相違

 では、共同経済活動によって平和条約交渉進展の道は開けるのだろうか。

 もちろん、北方4島に日本が直接関与できるメリットはある。ヒト、モノ、カネの往来を盛んにし、現地の経済インフラを整えれば、将来の返還に向けた環境整備を事前に進めることにもなるし、地元住民との信頼醸成にも寄与するだろう。しかし、主権の問題があやふやなまま進めれば、逆にロシアによる4島の実効支配を固定化することにもなりかねない。共同経済活動はもろ刃の剣だともいえる。

 両首脳の声明は確かに「双方の(法的な)立場を害さない」としており、安倍首相は「ロシアの法律でも日本の法律でもない特別な制度の下で実施していく」と述べ、「特区」を念頭に進める考えを示す。ただ、ウシャコフ大統領補佐官は「(4島が)ロシアに帰属しているのだから、ロシアの法律で実施するのは当然だ」としており、早くも日ロ間の見解の違いが浮き彫りになっている。

 過去をさかのぼると、日ロ両国は1998年、北方領土の周辺水域での日本漁船の操業枠組み協定を結んだ経緯がある。管轄権を事実上棚上げにして、双方が安全に漁業に従事できるようにしたもので、日本側は今後、これを参考にしながら実現の道を探っていくとみられる。

 ただ、小渕政権時代のこの年には日ロの共同経済活動委員会も設置され、操業枠組み協定を発展させてウニ、貝類の栽培漁業などを進めようとしたが、主権の問題などが絡み実現しなかった。今回もあくまでも「双方の立場を崩さない」方式で共同経済活動を実施しようとすれば、入念かつ綿密な事前調整が欠かせない。実現にはかなり長い時間がかかるとみるべきだろう。

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