なんとかつないだ、領土問題解決への「細い糸」
ロシアのウシャコフ大統領補佐官によると、日ロは数週間前から事務レベルで「共同文書」の作成作業を進めてきた。しかし、文書の内容や表記の仕方で合意できず最終的に首脳の裁量に委ねられ、両首脳が約40分かけて調整したという。つまり95分に及んだ2人だけの会談のうち、半分近くは「プレス向け声明」に費やしていたわけだ。
ちなみに、当初予定していた共同声明が日ロ別々の「プレス向け声明」になった理由をいぶかる向きもあるが、日ロの表記で違う部分は北方4島の表現だけだ。日本側は「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島」とし、ロシア側は「南クリール諸島」と記している。4島の名前を明記しなかったのは、ロシアでは歯舞群島とは言わず、色丹島と歯舞群島を合わせて「マーラヤ・クリールスカヤ・グリャダー」(小クリール群島)と総称しているからだろう。
話を戻そう。今回の会談は日ロの領土交渉の当面のヤマ場とみられていたが、発表された声明を見る限り、領土問題という言葉は全くなく、4島における共同経済活動の協議開始がほぼ唯一の成果だったことになる。
安倍首相は9月にロシア極東のウラジオストクを訪問した際、プーチン大統領と会談後に「新しいアプローチに基づく交渉を今後、具体的に進めていく道筋がみえてきた」と表明していた。その道筋が今回の合意だったのだろうか。
首相はウラジオ訪問に先立って5月にロシア南部のソチを訪問し、ウクライナ危機後に控えていた本格的な日ロ首脳対話を再開した。このソチ訪問の際に、首相はプーチン大統領との間で「新しいアプローチ」を掲げたわけだが、日本側はその一環として、当時から北方領土での共同経済活動に前向きに取り組む姿勢を示していたとされる。
ただ、ソチ、ウラジオ会談当時、日本側が想定していたのは恐らく、「2+α」方式だったのだろう。色丹、歯舞両島は日本に引き渡してもらい、択捉、国後の両島は共同経済活動によって日本が関与できる形で決着させる方式だ。
プーチン大統領はかねて、平和条約締結後に色丹、歯舞の2島を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言の有効性を認めている。北方領土での日ロの共同経済活動にも前向きだ。安倍首相は70年以上も未解決の北方領土問題を動かすには、ロシアが応じやすい方式で着地点をみいだすのが現実的だとみて、これを「新しいアプローチ」と称して進めてきたようにみえる。
ところが、プーチン大統領の来日が近づくにつれ、領土問題に対するロシア側の想像以上に厳しい姿勢が明らかになり、結局は共同経済活動と元島民らの4島往来の拡充だけを打ち出す形で、なんとか細い糸をつないだのが実情ではないだろうか。
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