ポロシェンコ大統領の選挙キャンペーンに参加したくない

 この事件について、プーチン大統領は記者会見の場などで何度か触れているが、とくに興味深いのは12月5日の発言だろう。モスクワで開かれたボランティアを表彰する式典に出席後、記者団からポロシェンコ大統領との会談の可能性とその条件について質問を受けた。大統領の返答は「私は単にポロシェンコ大統領との会談を避けたり、嫌ったりしているわけではない。私は彼の選挙キャンペーンに参加したくないのだ」というものだった。

 ウクライナでは2019年3月31日に次期大統領選が予定される。プーチン大統領によれば、ポロシェンコ大統領はまさに大統領選を視野に意図的に危機的状況をつくりだし、その責任を自身ではなくロシアに転嫁し、かつ問題をうまく処理できる能力があると見せかけようとしているのだという。

 ロシアの有力紙「ベドモスチ」が報じたキエフ社会学国際問題研究所の世論調査では、次期大統領選の有力候補者の中で、ポロシェンコ大統領の支持率はわずか11.9%に過ぎない。支持率トップのユリア・ティモシェンコ元首相(19.3%)の後じんを拝し、劣勢に立たされているのが実情だ。

 ポロシェンコ大統領が事件直後に60日間に及ぶ戒厳令の布告を提案したのも、国民の危機意識をあおって自らの支持率向上につなげたり、次期大統領選そのものの延期を画策したりするのが主たる狙いだとロシア側は強調する。これがプーチン大統領の「私は彼の選挙キャンペーンに参加したくない」という発言につながる。

 ロシアはさらに、今回の事件はそもそもウクライナが意図的に引き起こしたとの論陣も張っている。FSB幹部は「ウクライナ艦船は事件の1カ月ほど前からアゾフ海で挑発行為を繰り返していた」と指摘。今回はウクライナ側からケルチ海峡航行の事前通告がなかったうえ、拿捕したウクライナ海軍の艦船を調べたところ、「通常のレベルを超える武器や弾薬を搭載していた」とも主張している。

 政権によるこうした宣伝効果もあって、ロシア国内では、事件の責任はウクライナにあるとの認識が幅広く共有されている。政府系の全ロシア世論調査センターの直近の調査では、「ウクライナ政権による計画された挑発行為」とする回答が79%に上った。逆に、ウクライナ政権に紛争状態をつくる意図はなかったと判断する市民はわずか7%だった。

 当然、ウクライナとの関係悪化を指摘する声も増えている。民間世論調査会社のレバダ・センターの調査によれば、ウクライナとの関係を「悪い」とみなすロシア市民が直近で60%と、「良い」の28%を大幅に上回った。かつてともにソ連を構成した共和国で、スラブ系住民が主体の兄弟国ともいわれたロシアとウクライナは、2014年のクリミア併合をきっかけに関係が悪化しているが、今回の事件をきっかけに一段と冷え込みそうな雲行きだ。

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