日ロ領土問題との関連性は?
ではFSBがなぜウリュカエフ氏を標的にしたのか。石油利権との関連を指摘する専門家は少なくない。経済の長期低迷で全体に利権のパイが小さくなるなか、エネルギー分野は数少ない有望分野だからだ。
例えばフォーブス誌ロシア版が集計した2015年のロシア企業経営者の年間報酬ランキング。トップは国営天然ガス最大手「ガスプロム」のアレクセイ・ミレル社長、2位はロスネフチのセチン社長だった。

とくにロスネフチは、かつて脱税や横領の罪で投獄された元石油王ミハイル・ホドルコフスキー氏が率いた「ユーコス」の解体資産を吸収して急拡大した、いわく付きの企業でもある。FSBが利権の宝庫とみてもおかしくない。
財政赤字の穴埋めに躍起となる政府は、ロスネフチの資金力や資産を最大限利用しようとしている。これに反発するFSBが政権内の財政・経済派に圧力をかけるため、ウリュカエフ氏をスケープゴートにした可能性も否定できない。
ロシアでは2018年春に予定される次期大統領選を控え、各勢力による水面下の権力闘争やかけ引きが早くも始まっている。大統領自身、大統領府幹部に若手や有能な実務家を抜てきするなど、「次」を見据えた人事刷新に動き始めている。ウリュカエフ事件もそうした文脈の中で捉えるべきなのかもしれない。
さて、事件と日本との関係だ。ウリュカエフ氏は11月初めにモスクワで世耕弘成経済産業相と会談し、プーチン大統領の来日時に調印する日ロ経済協力案件を詰めた。ペルーでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議時に開いた日ロ首脳会談にも同席を予定していたが、その直前に拘束された。
このため日ロ関係との関連が一部で指摘されたが、ロシアでは日ロの領土問題と結びつけるような分析は見当たらない。ウリュカエフ氏は日本との経済協力の窓口を務めたが、業務のごく一部に過ぎない。やはり内政問題とみるのが自然だろう。
ただし、日ロが平和条約締結交渉を続けていくうえで、ロシアの政局が大きく流動化しつつある現状は頭の片隅に入れておく必要がある。
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