売却の白紙撤回への動きが見られない不思議

 次に連邦捜査委のロスネフチへの対応だ。ロスネフチによるバシネフチの買収そのものは合法で、全く捜査の対象にはならないとしているからだ。

 現地の報道によれば、実はウリュカエフ氏へのおとり捜査を陰で主導したのはロスネフチ自身だったという。FSBの元幹部で、現在はロスネフチの保安担当副社長がFSBと組んで仕掛けたというのだ。副社長はイーゴリ・セチン同社社長と親しく、ウリュカエフ氏の追い落としは社長の指示だったのではないかとの臆測も一部に浮上している。

 さらにバシネフチの民営化でそもそも、ウリュカエフ氏がどこまで決定権を握っていたかという疑問だ。

 政府内では、この民営化をめぐって激しい論争があった。国営企業のロスネフチによる買収は、果たして「民営化」といえるのかが焦点だった(関連記事「ロシア、奥の手「大民営化政策」に漂うきな臭さ」)。確かにウリュカエフ氏は民営化の当事者で、当初はロスネフチへの売却に否定的だったものの、9月以降に容認する立場に変わっている。

 しかも翌10月、メドベージェフ首相が最終的にロスネフチへの売却決定を発表した際、政府指令書は「経済発展省の提案を受け入れた」と明記していた。プーチン大統領も自らの本意ではないことをほのめかしつつも、この決定は財政赤字の穴埋めを優先する「政府内の財政・経済派の立場だ」と弁明していた。

 こうした経緯からみると、大統領も首相もウリュカエフ氏の提案に従った格好だが、ロスネフチへの売却の流れが一気に進んだのは9月初め、プーチン大統領が「英BPも出資するロスネフチは厳密にいえば国営企業ではない」と発言したのがきっかけだったとされている。

 また、仮にウリュカエフ氏がこの民営化プロセスの全権を握り、かつ裏で要求した多額の賄賂によって民営化が決着したとすれば、大統領はロスネフチへの売却自体の白紙撤回を命じるのが筋だろう。しかし、そういう動きは全く見られない。

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