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 日ロ首脳は11月14日にシンガポールで開いた会談で、1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約締結交渉を加速することで合意した。自らの任期中に北方領土問題を決着させたいという安倍晋三首相の意欲の表れだろうが、果たして交渉は前進するのだろうか。

11月14日の日ロ首脳会談(写真=ロイター/アフロ)

 「領土問題を解決して、平和条約を締結する。この戦後70年以上残されてきた課題を、次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つという、その強い意思を大統領と完全に共有いたしました」――。

 シンガポールでの日ロ首脳会談後、安倍首相は記者会見を開いて自ら概要を説明した。「終止符」を打つ具体的な方策として、1956年宣言を基礎に交渉を加速させると言明。年明けに自身がロシアを訪問する意向も表明した。

 1956年宣言は平和条約締結後に、北方領土の歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すと規定している。日本とソ連の両議会が批准した法的拘束力のある唯一の文書で、プーチン大統領もその有効性を認めていた。

 ただし日本政府内ではこれまで、同宣言を交渉の軸に据えれば、北方4島のうち国後、択捉両島の帰属問題が棚上げされかねないとして慎重論が根強かった。安倍政権が今回、路線を大胆に軌道修正した理由はなにか。

 安倍、プーチン両首脳による会談は通算で23回目だが、今回の会談はかつてなく冷めたものになるのではないかとの観測が事前に流れていた。

 9月にロシア極東ウラジオストクでの東方経済フォーラムの全体会合で突然、プーチン大統領が「一切の前提条件を付けずに、年末までに平和条約を締結しよう」と提案。北方領土の帰属問題を解決して平和条約を締結するという日本政府の立場と相いれず、交渉が袋小路に陥る懸念が指摘されていたからだ。

 実際、プーチン大統領は10月にソチで開かれた内外有識者会合「バルダイ・クラブ」で、「我々はすでに日本と70年間も(領土)問題で論争してきているのに全く合意できない」と言明。善隣友好協力条約の調印後に国境を画定した中ロ関係を引き合いに、まずは平和条約を締結して信頼を醸成してから領土問題に取り組むのはどうか、というのが9月の提案の趣旨だったと表明した。

 同会合ではさらに、東方経済フォーラムで自身の案を披露した直後、現地で安倍首相と柔道大会を共に視察した際に、首相が「現時点で日本はそのような方策(大統領提案)を受け入れられない」と返答していたことも明かした。

 大統領は「それならそれで構わないが、70年も足踏みしたままで終点はみえないままだ」と指摘。2016年末の山口での首脳会談合意に基づき、平和条約締結に向けた柱として協議を進めている北方領土での日ロ共同経済活動についても、「発想は良いが、実現への歩みは非常に遅々としている。それが問題だ」と苦言を呈していた。

 ちなみに「バルダイ・クラブ」の会合では、大統領は日本の研究者の質問に答える形で日ロの平和条約問題に触れた。回答内容もさることながら、平和条約問題に対するプーチン大統領の心情をより端的に表していたのは、日本の研究者の質問に移る際の司会者とのやりとりだった。

司会者「次は日本の同僚です。大統領、彼はどんな質問をするでしょうか」

プーチン大統領「分からないね」

 

司会者「私も分かりません」

 

プーチン大統領「もしかして領土の話ではないだろうね。つまらないなあ」

 領土が絡む日ロの平和条約問題はもう飽き飽きしたという印象だ。