背に腹はかえられない
「本当の民営化とはいえないのではないか」――。後日、記者団に厳しく問われたプーチン大統領は「あくまでも中間的な措置であり、外国資本を含む戦略的投資家への売却を想定した本格的な民営化への一歩だ」と弁明。「これまで何度も言ってきたように、国家資本主義をつくるつもりはない」と強調した。
大統領は別の場でも「本格的な民営化の準備だ」と表明。ロスネフチの将来の民営化を想定すれば、バシネフチとの統合も相乗効果が見込めると主張している。一方で、こうした発想は「政府内の財政・経済派の立場だ」と指摘し、自らの本意ではないことも随所にほのめかせている。昨今の財政状況を踏まえれば、背に腹はかえられないということのようだ。
バシネフチ株の売却では、政府が入札企業に国営銀行からの融資による資金調達を禁じた。このためロスネフチは東シベリア有数のバンコール油田の権益の一部をインド企業に売却するなどして、短期間に資金を確保したとされる。辣腕タイプのセチン社長が率いるからこそ可能だったともいえる。
だが、こうしたいびつな“民営化”が長期的視点からみて、ロシアの国益につながるのか疑問視する声もある。財政赤字の穴埋めに苦慮する政府にとって、ロスネフチ頼みの状況が当面続くとみられるものの、政財界で特異な存在感をみせるセチン社長には政敵も少なくない。
セチン社長をめぐっては蓄財疑惑もしばしばとりざたされ、かつて「側近中の側近」といわれたプーチン大統領との関係も、さほど親密ではなくなっているとの噂も流れる。ロスネフチの肥大化が一段と進むなか、バシネフチの“民営化”騒動のしこりが政権内の経済路線対立や、石油利権をめぐる抗争を助長する可能性は否定できない。
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