突然延期された民営化入札

 実際、政府は第1弾として今年7月、アルロサの10.9%分の株式を複数の投資家に売却した。続いて着手したのが石油会社のバシネフチだ。ただ、原油市況が低迷しているだけに、バシネフチについては発行済み株式の「50%+1株」を公開による民営化入札で一括売却することにした。過半の議決権を握れるというプレミアをつけることで、売却価格の上乗せを狙ったわけだ。

 同社の民営化入札は当初、今夏中に実施する予定だった。事前の各社への打診では、国内の石油会社や投資ファンドなど9つの企業・組織が入札参加の意思を示したという。中でも当初から最有力視されたのが、ロシアの民間石油会社で最大手の「ルクオイル」だ。同社自身、買収に強い意欲を示していた。

 ところが入札は突然、延期された。国営企業のロスネフチにも入札資格を与えるべきだとの意見が浮上したためだ。かねてバシネフチの買収に関心を示していたロスネフチのイーゴリ・セチン社長が土壇場で、政権に強い圧力をかけたともいわれている。

 これには政府や大統領府からも、反発が相次いだ。急先鋒は政府内で燃料エネルギー複合体を統括するドボルコビッチ副首相で、「ロスネフチは国営企業なので、バシネフチの民営化に参加できるわけがない」と切り捨てた。大統領府内でも「ばかげた発想だ」と批判の声が出た。

 ただ、政府内ではシュワロフ第一副首相のように参加を支持する意見も多く、結局、バシネフチの民営化計画は明確な指針もタイムテーブルもないまま先送りされてしまった。実質的な棚上げの背景には、ロスネフチに買収資金を確保する時間的な余裕を与える狙いがあったとの説もある。

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