「根本的な情勢の変化」とは何か

 プーチン大統領は今回、そんな米ロ間の核軍縮の「歴史的な合意」の履行を停止すると表明したわけだ。

 「核なき世界」をレガシー(遺産)にしたいオバマ大統領の任期切れがいよいよ近づくなか、そのオバマ氏に土壇場で痛烈なパンチを浴びせたともいえる。同時に、次の米大統領の座を共和党のドナルド・トランプ氏と激しく競っている民主党のヒラリー・クリントン氏に、一定の打撃を与える思惑もあるのかもしれない。

 ロシア側は履行停止のひとつの理由として、ロシアが高額の資金を投じて兵器級プルトニウムを処分する設備をつくったのに、米側が「埋蔵」方式で処分しようとしており、必ずしも軍事転用を防ぐことはできない点を挙げた。

 もっとも、国際社会が驚きをもって受け止めたのは「戦略的安定における根本的な情勢の変化」という、もうひとつの理由のほうだ。

 「根本的な情勢の変化」とは何か。大統領令では、大きくわけて2つの点を指摘している。ひとつは東欧地域における米国の軍事的な台頭、もうひとつは米国による対ロシア制裁だ。このうち米国の軍事的な台頭については北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大、ウクライナ危機に伴って進む米軍部隊のバルト・東欧諸国への配備増強、ウクライナでの米国教官による反ロ強硬組織に対する軍事訓練の実施などを挙げている。

 一方、米国による対ロ制裁に関しては、ウクライナ危機を理由にした経済制裁のみならず、人権侵害の疑いがあるロシア人の米国入国を禁じたり、米国内の資産を凍結したりする「セルゲイ・マグニツキー法」も批判の矢面に挙げた。この法律はロシア高官の不正事件を国内で追及していた同名のロシア人弁護士の獄中死事件を受け、米国で2012年に制定されたものだ。

 「米国は最近、残念ながらロシアに対する様々な非友好的な行動をとっている」――。ラブロフ外相はこう指摘し、大統領令の発令は「やむを得ない措置だった」と説明した。とくにロシアに対する大規模な経済制裁、NATOの軍事インフラの拡大やロシア国境付近での米軍部隊の増強などを列挙し、米国とその同盟国があからさまに「ロシアに対する抑止政策への転換」を公言するようになったと批判している。

 ラブロフ外相は同時に、兵器級プルトニウムの処理に関する米国との協力を停止しただけで、「ロシアは核軍縮における自らの義務を放棄するものではない」と強調。米国が自らの政策(対ロ抑止政策)を見直せば、米ロのプルトニウム合意を再び履行する用意があるとしている。