「人件費が減り、彼には心底から感謝している」――。プーチン政権が7月末、ロシアに駐在する米国人外交官の大幅な削減を求めたのに対し、米国のトランプ大統領が8月になって冗談とも、本気とも受け取れるような発言をした。感謝するとした相手は当然、プーチン大統領だ。

プーチン政権が打ち出した措置は、ロシアに駐在する米外交官らの総数を9月1日までに、米国に駐在するロシア外交官と同数の455人に削減するよう求めたものだった。米外交官の大量退去を実質的に通告したもので、プーチン大統領は「755人がロシアでの活動を停止しなければならない」と述べていた。
ところがだ。トランプ大統領の本音はともかく、米政府もただでは引き下がらなかった。9月1日の退去期限を前にした8月下旬、モスクワの米大使館はロシア国内での米国入国ビザ(査証)の発給を8月中は停止するとともに、9月1日からはモスクワの大使館領事部でのみ発給すると表明したのだ。
米大使館は「我々のロシアでの主要な外交業務は米国市民の利益を守ることだ」とし、プーチン政権による米外交官の大規模な退去措置によって、ロシア人に対するビザ発給を含めた他の業務を縮小せざるを得なくなったと説明した。
米政府は従来、ロシア国内ではモスクワの大使館領事部と、サンクトペテルブルク、エカテリンブルク、ウラジオストクの各総領事館でビザを発給してきた。ロシア紙によれば、2016年にロシアで発給された米国入国ビザ(移民ビザを除く)は約18万3000件。このうち13万6000件超はモスクワでの発給だったが、サンクトペテルブルクで約2万7600件、エカテリンブルクで1万1500件、ウラジオストクでも7000件以上が発給されたという。
9月からはこうした地方での発給業務がなくなり、希望者はわざわざ首都モスクワまで出向いて手続きをしなければならなくなったわけだ。当然、ビザ申請から発給までにかかる期間も長引くとみられ、「半年ぐらいは待たなければならなくなる」(コメルサント紙)といった悲観的な見方さえ出ている。米国への渡航を計画する一般市民への影響は避けられそうにない。
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