トランプ大統領に裏切られた

 米トランプ政権による会談後の矢継ぎ早の対ロ制裁は、こうしたロシア国民の期待を裏切ったとみることもできる。それだけにプーチン大統領も国内世論に配慮し、「ロシアには無意味だ」などと言い訳することで、さほど深刻な事態ではないと強調せざるを得なかったようだ。

 もちろん、米国による対ロ制裁そのものは決して目新しくはない。「ロシアに冷淡」とされたオバマ前政権も、とくにロシアによるクリミア併合以降、制裁を頻繁に発動していた。米大統領選への介入疑惑をめぐっては、多数のロシア外交官を国外追放したこともあった。

 米国の制裁はロシアにとって半ば慣れっこになっているわけだが、トランプ政権下で発動される制裁は、ロシア国内ではオバマ前政権下よりも相当な危機感をもって受け止められているのが実情だ。なぜか。

 トランプ大統領は平素、ロシアとの「融和と協調」の必要性を唱えているだけに、“裏切り行為”として倍加してとらえられる面もあるが、ロシアが危機感を抱く理由は別にある。制裁措置の内容が徐々に、ロシア経済を根幹から揺るがしかねない厳しいものになりつつあるからだ。

 

 トランプ政権は今年4月には、昨年8月成立のロシア制裁強化法に基づき、米大統領選への介入やシリアへの武器売却などを根拠に対ロ制裁を発動した。ここでは世界有数のアルミニウム会社「ルサール」などを実質支配する大富豪のオレグ・デリパスカ氏を始め、ロシア経済をけん引する大手新興財閥の経営者らを標的にした。

 

 神経剤を使った英国での襲撃事件への関与を理由に、米国務省が先に打ち出した「米安保に関わるモノや技術の禁輸」措置にしても、厳格に適用されればアエロフロート・ロシア航空の米国内での発着禁止といった深刻な事態に陥る懸念があるという。

 

 さらに、米超党派の上院議員らが準備している新たな対ロ制裁法案では、ロシア国営銀行によるドル決済の禁止、米国民によるロシア国債の取引禁止、ロシアのテロ支援国家の指定まで盛り込んでいるとの情報も伝わってきている。

 

 ロシアの金融市場ではここにきて、米国による一連の制裁圧力を嫌気して株式相場が急落。通貨ルーブルも一時1ドル=70ルーブル近辺まで下落する場面があった。国内の経済専門家の間では「米国の対ロ制裁はロシアの経済成長率を0.5~1.5ポイント押し下げる要因となる」と予測する向きも出ている。

 

 「ロシアにとっては非生産的で意味がない」というプーチン大統領の発言とは裏腹に、ロシア政府も経済・金融界も、米国の制裁がもたらす負の影響を深刻に受け止め始めているのは間違いない。

次ページ ロシア、イラン、トルコが「団結」