ロシアへの責任転嫁でクリミア論争再燃か

 ロシアも黙っていない。ロゴジン副首相は北朝鮮が旧ソ連製エンジンをコピーしたとすれば、「ウクライナの専門家が協力しないと実現できない」と主張。プシコフ上院議員は「ロシアが北朝鮮に供給したとするウクライナ政権の声明は全く無礼なウソだ」と断じた。

 ロシアメディアも、ウクライナからの流出の可能性を示唆するようなユジマシュ社幹部らの発言を報じたり、ウクライナが過去に旧ソ連製の空母「ワリャーク」を中国に売却するなど、兵器や軍事技術の売却で第3国の軍事技術向上に“貢献”してきた経緯を吹聴したりして、ウクライナの関与を強くにじませている。

 かつてソ連を構成する共和国で、ともにスラブ系民族を主体とする兄弟国だったロシアとウクライナがここまで反目するのは、やはり2014年からのウクライナ紛争が大きく影響している。クリミアはロシアに併合されたままで、政府軍と親ロシア派武装勢力のにらみ合いが続くウクライナ東部でも、和平プロセスが一向に進んでいないからだ。

 両国のそれぞれの世論調査をみても、極めて良好だった両国関係が2014年を境に急激に悪化したことがわかる。一見、両国関係に関わらないような北朝鮮へのエンジン流出疑惑をめぐっても、激しい非難の応酬が起きるゆえんだろう。

 もっとも、全く無関係というわけではない。ロシアメディアの一部は、ウクライナが独立後にソ連時代に配備された核兵器を放棄する際、廃棄したはずのミサイルエンジンの一部が北朝鮮に流れた可能性を示唆した。

 ソ連時代に国内で核兵器が配備されていたのは、ロシア、ウクライナ、ベラルーシとカザフスタンの4共和国。ウクライナは核弾頭数がロシアに次いで多く、国家独立後は一時的に「世界第3の核大国」となったものの、結局はベラルーシ、カザフとともに核保有を放棄した。

 ロシアの報道はその時の混乱と北朝鮮疑惑を結びつけたものだが、ウクライナが当時、核放棄に当たって米国、英国、ロシアと交わした文書がある。1994年のブダペスト覚書だ。ウクライナが核兵器を放棄する見返りに、米英ロがウクライナの安全を保障すると規定したものだ。2014年のロシアのクリミア併合は、このブダペスト覚書への「明白は違反」というのがウクライナの主張だ。成り行き次第では、北朝鮮疑惑がクリミア論争に再び火をつけかねないわけだ。

 話を戻そう。さて、ポロシェンコ大統領が指示したウクライナの調査結果はどうだったのか。トゥルチノフ国家安全保障・国防会議書記が22日、大統領に提出した報告書は「ウクライナはRD-250を含む一切の軍事物資を北朝鮮に提供していない」と関与を否定した。ウクライナはRD-250やその改良型を1991年から生産しておらず、ユジマシュ社の生産ラインは1994年に撤去されたと指摘。在庫として残っていたエンジンもすべてロシアに供給したとしている。

 やはりというべきか。報告書はさらに「ロシアはウクライナの信用をおとしめるような挑発的な情報戦を組織的、計画的かつ露骨に行っている」と非難した。ロシアは6月初めから、北朝鮮がウクライナ専門家の支援でミサイル開発を進展させたかのような情報をモスクワで流し始め、ロシアの情報機関もかねてパイプのある海外の専門家やジャーナリストたちに流布したと主張。くだんの分析論文を書いたIISSの専門家も家族がロシア特殊機関幹部と親しいとして、ロシアによる情報操作が騒動の原因との見方を示した。

 その真偽はともかく、両国の非難合戦が今後も加熱していくことは疑いない。