ウクライナから北朝鮮にミサイル技術が流出?

 IISSの専門家は写真分析などを基に、「火星12」「火星14」には旧ソ連製のロケットエンジン「RD-250」の改良型が搭載されたと断定。旧ソ連製のエンジンは恐らく、中距離弾道ミサイル「ムスダン」の度重なる発射失敗を受けて、過去2年以内にロシアかウクライナから非合法ルートで調達されたと推測した。

 専門家はエンジンの具体的な調達元にも触れ、設計を担当したロシア企業の「エネルゴマシュ」か、あるいはウクライナ企業の「ユジマシュ」の可能性があるとした。さらに北朝鮮が2016年から新エンジン開発に着手したとすれば、その年に旧ソ連製エンジンを調達したとみられ、まさにユジマシュ社が財政難に陥っていた時期だと強調。「ウクライナ政府が関与した可能性を示唆するものではない」と断りつつも、ユジマシュが流出元ではないかとの疑いを強くにじませている。

 ユジマシュは「南機械製造工場」の略称で、ウクライナ東部ドニプロ(旧ドニプロペトロフスク)にあるウクライナ有数の国営企業だ。旧ソ連時代はICBMやロケットエンジンなどの生産を主力にソ連軍需産業の一翼を担っていたが、ソ連崩壊で経営環境が激変。2014年のロシアによるクリミア併合後は、主な取引先だったロシアとの関係も悪化し経営難に陥った経緯がある。北朝鮮との闇取引が疑われるゆえんでもある。

 過去には実際、北朝鮮がユジマシュ社をターゲットにした事件も起きている。当時、隣国ベラルーシの北朝鮮通商代表部に駐在していた2人の北朝鮮工作員がインターネットを通じて、ユジマシュの職員にロケット・宇宙関連機器の技術に関する機密情報の提供を呼びかけた。2人の北朝鮮工作員は結局、「秘密」印が押された科学論文をカメラで撮影中に拘束され、懲役8年の有罪判決を言い渡された。2012年のことだった。

 旧ソ連製のロケットエンジン「RD-250」はかつて、そのユジマシュで製造されていた。IISSの専門家によれば、エンジンの大きさは2m以下、幅も1mほどで、航空機による輸送はもちろん、ロシア経由の鉄道で北朝鮮に運ぶことも可能だという。一方で当然、同型のエンジンを大量に保有しているロシアから流出した可能性も否定できないとしている。

 ただでさえ経済苦境が続くのに、不本意な汚名を着せられ国際社会から見放されてはたまらない――。恐らく、こんな思いもあったのだろう。ニューヨーク・タイムズ紙の報道やIISSの分析に対し、真っ先にかみついたのがウクライナの政権幹部たちだ。いずれも「ウクライナは北朝鮮のミサイル開発に一切関与していない」と完全に否定。ポロシェンコ大統領は直ちに真相究明の調査を指示するとともに、疑惑を晴らすため、記事を書いたニューヨーク・タイムズの記者を招待するとまで豪語した。

 当のユジマシュ社も「当社は宇宙開発用であれ軍事用であれ、北朝鮮のロケット開発計画には過去も現在も一切関わっていない」との声明を発表した。

 よりやっかいなのは、ウクライナ政権幹部の間でロシアに責任転嫁するような発言が相次いでいることだ。宇宙庁のラドチェンコ長官代行は「同型のエンジンは今もロシアが保有している」として、ロシアから北朝鮮に流出した可能性を強く示唆。国家安全保障・国防会議のトゥルチノフ書記は「今回の騒動を扇動したのはロシアの特殊機関だ」と批判した。