米露関係改善の兆しは全く見えず

 米国の制裁強化法はさらに、「外交的なメンツ」の面からもロシアを怒らせたといえるだろう。

 この法律はロシアだけでなく、イラン、北朝鮮に対する制裁強化も含めてひとつのパッケージにまとめた。この3カ国がいわば、今の米国にとっての「悪の枢軸」というわけだ。かつてブッシュ米大統領(当時)が「悪の枢軸」と名指しした国はイラン、イラク、北朝鮮だったが、今回はイラクに代わってロシアが不名誉な国のレッテルを貼られてしまった。

 ロシア国民の米国に対する視線も、やはり厳しくなっている。政府系の「全ロシア世論調査センター」が7月末に実施した調査では、回答者の39%が今の米ロ関係を「緊張状態」と評し、「冷めた関係」が23%、「敵対関係」も21%に上った。逆に「普通の関係」とする見方はわずか10%だった。

 米国のトランプ大統領に「好意を持つ」とする回答も18%にとどまり、今年3月の調査の38%から大幅に下落した。ロシア国内で広がっていたトランプ政権への期待感も、対ロ制裁強化法の採択などで一気にしぼんでしまった

 プーチン大統領自身、ロシアに駐在する米外交官の大量制限という報復措置についてコメントした国営テレビのインタビューでこう語っている。「我々はかなり長い間、(米ロ関係が)良い方向に変化するのではないかと心待ちにし、状況は変わるとの期待を抱いてきた。しかし、あらゆる点からみて言えることは、仮に状況が変わるとしても近い将来ではない、ということだ」。

 米国はオバマ前政権下の昨年末、米大統領選にロシアがサイバー攻撃などで干渉したと断定し、米国に駐在するロシア情報機関職員35人を追放する制裁措置を発表した。当時、ロシアのラブロフ外相などは直ちに対抗措置をとる可能性を示唆したものの、プーチン大統領の決断で報復を見送った経緯がある。

 ロシアによる干渉の有無はともかく、米大統領選で「ロシアとの良好な関係づくり」に強い意欲を示していたトランプ氏が当選し、大統領就任を控えてよけいな波風は立てたくないとの配慮だったとされる。当然、トランプ新政権下での米ロ関係改善への期待も当時は大きかったのだろう。

 ところが実際は、トランプ政権発足から半年以上がたっても米ロ関係改善の兆しは全くみえない。それどころか、米国では米大統領選をめぐるロシア疑惑を追及する動きが過熱するばかり。米ロ首脳は7月にようやく、ドイツでの20カ国・地域(G20)首脳会議の際に初会談したものの、議論の多くは介入疑惑に費やされた。クレムリン内では米国社会のアンチ・ロシアの風潮とともに、トランプ大統領の指導力や統治能力への失望感も強まっているという。

 ロシアによる今回の対米報復措置は確かに、米議会による対ロ制裁強化の動きに反発したとはいえ、形式的にはオバマ前政権が昨年末に発動したロシア情報機関職員の大量追放に対し、これまでロシアが「留保」してきた対抗措置を発動したことになる。その意味では、プーチン政権がトランプ大統領への配慮を捨て、実質的に見限ったといえなくもない。

 プーチン大統領は一方で、米ロは大量破壊兵器の削減やテロとの戦いなどの国際問題、2国間でもエネルギー、航空、宇宙といった経済分野で協力できる余地は大きいとしているが、トランプ政権に失望したロシアが率先して対米関係改善に動くとは考えにくい。外交儀礼的な発言の域を出ないだろう。

 むしろ当面は米国による対ロ制裁強化法の影響を探りつつ、さらなる制裁強化に備えた対抗措置の検討を進めていくとみられる。トランプ政権下でも、米ロの冷たい関係が長らく続きそうな情勢となってきた。