「ロシアに対する完全な貿易戦争」

 米下院は7月25日、上院は翌々日の27日、ロシアに対する制裁強化法案を可決した。採決結果は下院が賛成419に対して反対3、上院も賛成98に対して反対2と圧倒的だった。法案は2014年のロシアによるウクライナ領クリミア半島の併合なども非難しているものの、やはり昨年の米大統領選時のサイバー攻撃などによるロシアの干渉疑惑が投票動向に大きく影響したようだ。

 かねて議会による対ロ制裁強化の動きに批判的だったトランプ大統領もなすすべがなかった。仮に拒否権を発動しても、上下両院で3分の2の賛成で再び可決されて覆されるのが確実だからだ。トランプ大統領は8月2日に結局、「法案には問題があるが、私は国家の結束のために署名する」と法案に署名。ロシアに対する制裁強化法は成立した。

 制裁強化法はエネルギー、防衛産業を含めたロシアの基幹産業や銀行、個人を対象にし、米国内の資産凍結、米企業との取引制限、資金融資の規制強化などが盛り込まれた。しかも、制裁を緩和したり、解除したりする際には議会による事前審査を義務付け、トランプ大統領による外交の裁量権を大幅に制限したのが特徴だ。

 当然のことながら、ロシアは反発した。「米大統領がロシアに対する新たな制裁法に署名したことは、幾つかの帰結を招く。第1に米国の新政権との間で我々の関係が改善するという期待が完全に消え去った。第2にロシアに対する完全な貿易戦争が宣言されたということだ」――。メドベージェフ首相はフェイスブックにこう書き込み、米国への怒りをあらわにした。

 経済的な打撃を危惧する声も出始めた。とくに懸念されているのが、ロシア国営企業のガスプロムが進めている「ノルドストリーム2」計画への影響だ。ロシアからバルト海を通じてドイツにつながるパイプラインを建設し、天然ガスを欧州に大量供給する事業だが、米国の制裁強化法が厳密に適用されれば、この事業に参画するドイツ企業などが制裁され、計画が頓挫する恐れがあるからだ。

 ロシア外務省は「ノルドストリーム2」計画に関するコメントを発表し、「市場原則に基づいた純粋に商業計画だ」と強調。それにもかかわらず米国が制裁しようとするのは、米国のシェールガスがロシア産ガスと比べて価格競争で大きく劣後するため、非経済的手法で欧州ガス市場の争奪戦に挑もうとしているからだと非難した。

 これまで対ロ制裁に同調してきた欧州連合(EU)でもさすがに、今回の米国の制裁強化法にはドイツを中心に否定的な意見が根強い。米国がこの計画の阻止に動けば、米欧間の衝突にも発展しかねない。それだけに実際に制裁が発動されるかどうかは不透明だが、ロシア外務省があえてコメントを発表したこと自体、将来への危機感を映したといえなくもない。