密かに進む「プーチン再選戦略」

 一人ひとりの生活に目配りし、個々の悩みや不満の解消に真摯に努力する大統領のイメージを、国民に誇示する格好のエピソードとなったわけだ。やや芝居がかったような展開には当然、疑問もわいてくる。大統領府が果たしてどこまで、事前にシナリオを描いていたのかだ。

 プーチン大統領はこの日、イジェフスクで軍事工場や電子機械工場なども訪問し、工場労働者や学生などとの会合を重ねた。ブレチャロフ首長代行とも改めて個別会談している。大統領が「プーチンとのホットライン」で語ったように、イジェフスク視察の予定はもともとあったようで、老朽アパート問題だけのために訪問が計画されたわけではなさそうだ。

 では、訪問の真の目的は何だったのか。2つの理由が考えられる。まずは、9月10日に投票日を迎える統一地方選に向けた選挙応援だ。地方選では首長選や議会選など様々な選挙が予定されるが、共和国首長や州知事を選ぶ最も重要な首長選は、合計16の共和国・地方・州・市で実施される。

  ウドムルト共和国もそのひとつ。しかも、プーチン大統領は今年4月初め、汚職疑惑が浮上していた同共和国のソロビヨフ首長(当時)を「信頼を失った」として解任。代わりにブレチャロフ氏を首長代行に任命した経緯がある。同氏は当然、政権が推す候補として9月の首長選に出馬する。

 大統領がイジェフスクを訪問したのも、政権側の候補者の当選をより確実にする狙いがあるといえるだろう。国民人気の高い大統領が地元を訪れただけでも、政権側の候補者にとっては相当な選挙応援になるからだ。

 実際、プーチン大統領は今春以降、首長選が予定される地方への視察を重点的に実施するようになっている。7月14日には西部のベルゴロド州を訪問した。同州でも9月10日に州知事選が実施される。大統領は投票日までに、首長選が実施される16の連邦主体すべてを訪問する計画も取り沙汰されている。

 もうひとつの理由は、自身の大統領再選に向けた事実上の選挙キャンペーンという位置づけだ。次期大統領選は来年3月に実施される。プーチン大統領はなお、再出馬するかどうかの意思表明をしていないが、大統領府を中心にすでに綿密な「プーチン再選戦略」を練り、順次進めているとの見方が有力だ。

 大統領の国内支持率は依然8割を超すものの、マンネリ化する長期政権への不満も募っている。プーチン大統領への信頼を国民の間でつなぎ止めるには、地方視察も頻繁に行い、各地の住民と直接対話を重ねていく必要もある。

 特に、これまでプーチン人気を支えてきた主因が「国民生活の向上」だっただけに、大統領が直接現場に向かって老朽アパート問題解決に取り組むという今回のようなケースは、格好のイメージアップ戦略にもつながるわけだ。