ロシアのプーチン大統領が9月の統一地方選を控え、地方遊説を精力的に進めている。半面、その地方選で本来は、政権側の有力政治家として活躍すべき人物の存在感の薄さが話題になっている。メドベージェフ首相だ。
プーチン大統領 (左)が精力的に動く一方、メドベージェフ首相(右)の存在感は低下している(写真:ロイター/アフロ)
プーチン大統領 (左)が精力的に動く一方、メドベージェフ首相(右)の存在感は低下している(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアのウラル山脈の西側に位置するウドムルト共和国。首都イジェフスクは、世界的に有名な自動小銃「カラシニコフ」の製造拠点としても知られる工業都市だ。

 6月27日夕、プーチン大統領がこの街を視察に訪れた。真っ先に訪れた場所は、地元住民の女性アナスタシアが暮らす木造アパートだった。

 大統領がアナスタシアと知り合ったのは、その2週間ほど前の6月15日。プーチン大統領が生出演し、国民の様々な疑問や苦情に答える毎年恒例のテレビ番組「プーチンとのホットライン」だった。

 イジェフスクからの中継で番組に出演したアナスタシアは、自分たちの住む老朽アパートの惨状を切々と訴えた。「部屋の中は、夏は湿っぽく、冬はとても寒いです」「一番心配なことは天井がいつ落ちてきて、子どもや大人に危害を与えかねないかという恐怖です」「老朽アパートの認定はすでに受けていますが、取り壊しと転居は順番待ちで2029年となります。こんな状態で、あと12年もどうやって暮らせば良いのでしょうか」

 「何と言うことだ」――。アナスタシアの話にしばし絶句した大統領は、老朽アパートからの転居計画には連邦予算から一定額を拠出していること、全国的にはそれほど悪くないペースで転居が進んでいることなど、一般的な概況を説明した。

 ただし、全く説得材料になっていないと思ったのか、大統領は突然、「私があなたの所に行きましょう。イジェフスクには行く予定があるので、そちらに立ち寄ってどのような状況かを見ましょう。その時に、個人的に話し合いましょう。いいですね? そうしましょう」と番組の中で提案したのだ。

 それから2週間弱。プーチン大統領はさっそく約束を守り、アナスタシアの住むイジェフスクのアパートを訪問したわけだ。

 「ほら、ご覧の通りです」。アパートというより、バラックに近い古い木造の低層建物の前で、プーチン大統領に老朽ぶりを説明するアナスタシア。他の住民らも見守るなか、プーチン大統領はさっそく、隣で神妙に立っていたウドムルト共和国のブレチャロフ首長代行に説明を求めた。

大統領「(転居は)いつ始まるのかね。計画はいつ準備できるのか」

首長代行「計画は12月までに準備するようにします。転居は来年、つまり2018年から始めます」

大統領「ここで転居が必要なのは何家族かね」

首長代行「3つの建物で合計11家族です」

大統領「あなたは2018年から計画を始動させたいのかね」

首長代行「そうです」

大統領「11家族は緊急性が高い。今年の年末までに転居させなさい」

首長代行「わかりました」

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