日本を巻き込む「極東ルート」構想

 そこで新たにロシアが中国側に持ちかけているのが「極東ルート」。極東サハリン沖の天然ガスを中国北東部にパイプラインで輸出する構想だ。

 ガスプロムはすでにサハリンから極東のハバロフスク、ウラジオストクに至るパイプラインを建設・稼働済みで、中ロ国境まで短距離のパイプラインを建設すれば供給できる。ガスプロムとCNPCは2015年9月に「極東ルート」をめぐる覚書を交わした経緯もあり、ガスプロムのミレル社長は今年6月末、「2017年末までには供給条件で合意したい」と表明したばかりだ。

 ただ、「極東ルート」の動向には、日本も注視せざるを得ない。サハリン沖のガスは日ロ間のエネルギー協力案件にも深く関わってくるからだ。

 例えば、ガスプロムと英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、日本の三井物産、三菱商事が資本参加する資源開発事業「サハリン2」の液化天然ガス(LNG)基地増設計画、現在は凍結状態にある日本市場向けを想定したウラジオストクのLNG基地新設計画は、いずれもサハリン沖のガス田からのガス供給を前提にしている。

 さらに安倍晋三首相が「8項目の対ロ経済協力プラン」を打ち出し、対ロ経済協力を積極的に進める姿勢を打ち出すなか、日本では日ロ間に海底ガスパイプラインを敷設する構想を推進する動きも一部に浮上している。その構想でも対日供給を想定しているのが、サハリン沖に埋蔵される天然ガスである。

サハリンのガスで日本と中国を天秤に

 サハリンのガス田のうち、ガスプロムが最有望鉱区としているのが「サハリン3」の南キリンスキー鉱区だ。同社によれば、天然ガスの推定埋蔵量は7000億立方メートルを超えるという。ところが大きな問題がある。

 米政府は2015年8月、ウクライナ危機をめぐる対ロ経済制裁の一環として南キリンスキー鉱区を制裁対象とし、開発のための技術供与や機器の提供を禁止してしまったのだ。制裁の影響によりロシアはサハリンで果たして十分な量を確保できるのか、危ぶまれているのが実情だ。

 こうした現実にもかかわらず、今年6月末に開かれたガスプロム株主総会後の記者会見では、ミレル社長から意外な発言が飛び出した。事実上、凍結していたウラジオストクのLNG基地建設計画を、「外国企業の関心がある」として復活させると明言。さらに、「サハリン2」のLNG基地増設も遅くとも2019年第1四半期までに最終決定し、2023~24年中に稼働させると述べたのだ。

 中国に「極東ルート」の実現を積極的に呼びかける一方で、LNGの最大の需要国である日本にも秋波を送ったといえるだろう。日本と中国を天秤(てんびん)にかけながら、より優位な契約条件が見込める案件の実現を目指しているようにもみえる。

 しかも、ロシアのエネルギー輸出は経済的利益だけでなく、外交政策とも密接に絡む。最終決定には当然、政権の意向が色濃く反映するはずだ。表面的には「蜜月」とはいえ様々な問題を内包する中ロ、安倍首相とプーチン大統領が頻繁に首脳会談を重ねているとはいえ、先行き不透明な日ロ関係。それぞれの外交関係の行方も絡めながら、ロシアはサハリンのガスの利用法を固めていく腹積もりなのだろう。

 日本としてもまずはサハリンのガス開発状況を慎重に見極めつつ、冷静に対応を検討していく必要がありそうだ。