「英国のEU離脱はロシアを利する」。多くのメディアで目にする解釈だ。しかし、ロシアが置かれた厳しい状況を踏まえれば、そう単純な話ではない。プーチン政権にとっても、対EU政策の舵取りには大きなリスクが伴う。
ウズベキスタンで開かれた上海協力機構の首脳会議に参加したロシアのプーチン大統領。この場で初めて、英国のEU離脱に関してコメントした。(写真:Russian Presidental Press and Information Office/Abaca/アフロ)
ウズベキスタンで開かれた上海協力機構の首脳会議に参加したロシアのプーチン大統領。この場で初めて、英国のEU離脱に関してコメントした。(写真:Russian Presidental Press and Information Office/Abaca/アフロ)

 「英国が欧州連合(EU)から離脱したら誰が喜ぶだろうか。プーチンは喜ぶだろうし、バグダディもそうだろう」

 英国のキャメロン首相はEU離脱を問う国民投票に先立ち、過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者であるバグダディ容疑者とともにロシアのプーチン大統領の名を挙げて、EUへの残留を国民に訴えた。キャメロン首相だけではない。「ロシアを利するだけだ」という文言は、残留派が離脱の危険性を唱える中でしばしば利用されていた。

ロシアをネタにした英キャメロン首相への皮肉

 英国民投票の格好のネタにされたわけだが、プーチン大統領自身はどう反応したのか。投票前は「私なりの意見はあるが、それを明らかにするのは得策ではない」と思わせぶりに語り、離脱に賛成するか反対するかを一切、明らかにしなかった。「これはEUと英国の問題だ」と距離を置いてきたわけだ。

 そのプーチン大統領は24日、英国民投票でEU離脱の選択が明らかになった当日にようやく自らの見解を明らかにした。上海協力機構の首脳会議が開かれたウズベキスタンの首都タシケントで、記者団の質問に答えたものだ。

 「我々は(投票に)一切介入しなかったし、決して自らの立場を明らかにしなかった。これは正しい選択だった」。こう前置きした大統領が真っ先に口にしたのは、ほかならぬキャメロン首相への苦言だった。

 「キャメロン英首相は国民投票に先立つ声明でロシアの立場について話していたが、これは根も葉もなく、全く根拠がないものだ」

 そもそも国内世論に影響を与えようと、ロシアをネタにしたこと自体が間違った試みであり、しかも結果的に失敗した――。英首相への皮肉をたっぷりと交えた大統領は、「ましてや投票後に、ロシアの立場を代弁する権利は誰にもないし、それは政治文化の低俗さを示すものだ」と語気を強めた。

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