誰が大統領だろうと米露関係は変化しない

 もちろん、米大統領選にロシアがサイバー攻撃で介入したとする報告書を米情報機関が公表している以上、プーチン大統領の主張を鵜呑みにするわけにはいかないだろう。

 大統領自身、かつて「米ロの関係正常化の意向を公の場で語ってくれる人を歓迎しないわけにはいかない」と、トランプ氏の当選を望むような発言もしている。トランプ陣営に有利になるよう、ロシアが米大統領選で何らかの関与をした可能性は完全には否定できない。

 とはいえ、仮にサイバー攻撃などによるロシアの介入が事実としても、プーチン大統領が指摘するように、米国のような大国の選挙結果を左右するほど多大な影響を与えたとは考えにくい。インテリジェンスの世界では半ば当たり前の情報工作合戦をことさら大ごとにし、米国内の政争にロシアを悪用するのはいいかげんにしてほしい、というのがプーチン政権の本音ではないだろうか。

 いずれにせよロシアでは、トランプ氏の大統領当選直後にみられた米ロ関係改善への期待は急速にしぼんでいる。ロシアの世論調査会社レバダ・センターが5月下旬に実施した調査でも、米ロ関係に「変化はない」とみる国民が過半を占めている。

最近の米ロ関係をどう見るか
(注)5月下旬、ロシア市民1600人を対象にした世論調査
出所=レバダ・センター

 米ロは7月7~8日にドイツのハンブルクで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議の際に、トランプ大統領とプーチン大統領による初の首脳会談を計画している。ただ、ロシア大統領府内では会談の実現すら懐疑的な見方も浮上。仮に予定通り首脳会談が実施されても、抜本的な関係改善につながるような進展は期待できないとの観測が大勢だ。

 プーチン大統領も米ロの冷たい関係が長期化することを前提に、対米戦略を練り直しつつあるようだ。その兆候は最近の大統領発言にも垣間見られる。

 例えば、くだんの米NBCとのインタビュー。プーチン大統領は「大統領や政権党が変わっても、基本的な政策は変わらない。従って本質的に、我々にとっては米大統領が誰になろうがどうでも良いことだ」と述べている。

 大統領はこれに先立つ5月末、フランス訪問時にパリで実施したフィガロ紙とのインタビューでも、「私は既に3人の米大統領と接してきたが、政策は変わらない。なぜなら政権の官僚主義が非常に強いからだ」と指摘。例え何らかの理想をもって大統領になっても、どの政権でも官僚の説得によってたちまち理想は修正されてしまうと分析した。

領土問題の解決は日米安保条約が障害に

 もちろん、米ロの関係正常化への期待も示してはいるが、「我々は決して急がない」とも語っている。恐らく、トランプ政権下でも米ロの抜本的な関係改善はほぼ望めないと結論づけたのだろう。

 実際、フィガロ紙のインタビューでは、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大や対ロ防衛の強化、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの一方的脱退、欧州でのミサイル防衛(MD)システム配備といった米国の安全保障政策を「近視眼的な政策」などと再び鋭く批判した。同時にNATOがどう対処するにせよ、「我々は自らの防衛能力を高めていく」としている。

 米ロ「冷戦」の長期化を前提にしたロシアの外交・安保政策は、思わぬところにも波及している。日ロの北方領土問題への影響だ。

 プーチン大統領は「プーチンとのホットライン」終了後に記者団の質問に答えた際、日ロの北方領土交渉にも言及。領土問題の解決に向けては「良好な条件の創設」とともに、「もうひとつやっかいな問題がある。この地域を含めた安保の問題だ」と強調。「日本が自らの同盟国に対して負う義務」という言い回しで、日米の安保条約が障害になるとの見方を暗に示したのだ。

 要は仮に北方領土の日本への引き渡しに応じれば、米軍基地が展開される恐れを懸念したものだ。プーチン政権が北方領土交渉のハードルをさらに引き上げるために編み出した言い訳といえなくもないが、米国内で広がるロシアゲートの余波が日ロ関係にも影響しつつある現実には留意すべきだろう。