「約束違反」であり「西側の裏切り」

 ウクライナ問題でも明らかなように、ロシアにとって「NATOの旧ソ連圏への拡大阻止」は安保政策上の最重要課題になっている。旧ソ連のバルト3国はすでにNATOに加盟しているので、西側寄りとされるウクライナ、ジョージア(グルジア)、モルドバの加盟阻止が喫緊の命題となる。

 ただ、仮にNATOの影響力がこの3カ国に及ばなくても、ロシアのNATO不信が消えることはない。そもそもロシアは、NATOの東方拡大そのものを「約束違反」であり「西側の裏切り」とみなしているからだ。

 では、「NATOは拡大せず」という〝密約〟はあったのだろうか。

 プーチン大統領は今年1月、独ビルト紙のインタビューで、1990年当時のソ連側と西独の政治家エゴン・バール氏らとの「一度も公表されていない」会談記録を明かした。バール氏は旧西独のブラント政権下で東方外交を主導した人物として知られる。そのバール氏は「少なくとも軍事機構としてのNATOは中欧に拡大してはならない」と言明したという。同氏はさらに東西ドイツの統一に当たってNATO拡大ではなく、欧州の中心に新たな連合を作る必要性も強調したというのだ。

 NATOの拡大問題については、独シュピーゲル誌もドイツ側の記録として、ゲンシャー西独外相が90年2月10日、シェワルナゼ・ソ連外相(いずれも当時)に「我々は統一ドイツのNATO加盟が複雑な問題を提起していることを熟知している。しかし明らかなことは、NATOは決して東方に拡大しないということだ」と述べたと報じている。

 ソ連は結局、「NATOは東方に拡大しない」との約束を前提に、東西統一後のドイツのNATO残留を容認したとされている。ただし、「NATO拡大せず」との明文化された条文があったのかどうかは、明らかではない。当時はソ連の崩壊はもちろん、NATOの拡大も想定外だったのだろう。

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