東方拡大でロシアへの国境に迫るNATO

 こうしたロシアの根深い対米不信の底流には、北大西洋条約機構(NATO)を基軸とする欧州の安全保障体制への不満がある。とりわけ、米国がNATOの枠組みで進めるMD計画と、NATOの東方への拡大を毛嫌いしている。

 NATOは東西冷戦下の1949年にソ連に対抗する軍事機構として発足した。かつて東側ブロックの軍事機構だったワルシャワ条約機構は東西冷戦の終結で消滅したのに、NATOは加盟国を増やして東方拡大に動き、ロシアの国境へとどんどん近づいている。MD計画などを通じて防衛体制も着々と強めている。NATOは冷戦時代さながらの「対ロ包囲網」を構築するための軍事機構ではないかと、ロシアは疑心を強めているわけだ。

 実は、米欧とロシアの対立を決定的にしたウクライナ危機も、ロシアのNATO不信が一因だったともいえる。

 ウクライナ危機は政権運営をロシア寄りに軌道修正したヤヌコビッチ政権(当時)が14年春に親米欧派の市民らによって倒され、その動乱のさなかにロシアがウクライナ領のクリミア半島を併合したのが発端だ。プーチン大統領は当時から同国の政変を「米国の陰謀」と糾弾し、ウクライナのNATO加盟を阻止するためにクリミアを併合したことを示唆している。実際、大統領はクリミア併合を宣言した時の演説で、「(西側は)何度も我々を裏切った」と表明。NATOの東方拡大と国境付近での軍事施設の配備を批判している。

 「米国の陰謀」説に関しても、ロシアが好んで引用する〝証拠〟がある。15年1月末、米CNNによるオバマ大統領のインタビューだ。米大統領はウクライナ危機を招いたプーチン政権を批判するなかで、「我々がウクライナの政権移行を仲介した」と発言したのだ。ロシアのラブロフ外相は即座に反応し、「オバマ氏は政権移行という中立的な表現で、米国がウクライナ反政府勢力による政権転覆に関与したことを認めた」と指摘。ヤヌコビッチ政権の追い落としに米国が加担した〝事実〟が裏付けられたとした。

次ページ 「約束違反」であり「西側の裏切り」