低下した北朝鮮への影響力を挽回する好機

 次に、国際社会での影響力の誇示。プーチン大統領は米国への対抗意識もあってか、北朝鮮の核問題は「北朝鮮との対話に戻り、威嚇をやめ、平和的に解決する方策を見いだす必要がある」と主張する。その対話の枠組みとして求めているのが6カ国協議の早期再開だ。

 6カ国協議は議長国の中国と、北朝鮮、米国、日本、韓国、ロシアの各国代表が一堂に会して北朝鮮の核問題を話し合う枠組みだ。2008年12月の首席代表会合を最後に中断したままだが、2005年9月に合意した共同声明は、北朝鮮が「すべての核兵器および既存の核計画の放棄」を約束していた。

 また、その後の6カ国協議では朝鮮半島の非核化、米朝や日朝の国交正常化などの作業部会を設け、参加国がそれぞれ議長を務めることで合意したこともある。その際にロシアが議長となったのは「北東アジアの平和及び安全のメカニズム」。ロシアは当時、自ら主導して北東アジアに安全保障機構を構築したいとの意気込みを示していた。

 当時と比べ、北朝鮮の核・ミサイル開発のレベルが格段に向上している現実を踏まえると、6カ国協議を通じて北朝鮮の核放棄を促すシナリオは想定しにくい。とはいえ、仮に再開にこぎつければ、ロシアも北朝鮮の核問題のみならず、北東アジアの安全保障に一定の指導力を発揮できると考えているのだろう。

 今のロシアには、北朝鮮への政治的な影響力はほとんどない。北朝鮮の対外貿易もほとんどが中国だ。2016年は中朝貿易額が約58億ドルだったのに対し、ロ朝の貿易額は7700万ドルにも満たなかった。

ロシアの北朝鮮との貿易額
ロシアの北朝鮮との貿易額
(出所・KOTRA=大韓貿易投資振興公社、単位千ドル)
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 とはいえ、ロシアの前身であるソ連が北朝鮮の建国に深く関わり、絶大な影響力を誇った歴史的経緯もある。ロシアには依然、北朝鮮との結びつきを国際社会に誇示しようという思惑が根強いのも事実だ。

 例えば2015年5月、モスクワで開いた対独戦勝70年記念式典。ロシア当局者は直前まで、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長(当時の肩書は第1書記)が初の外遊先としてロシアを選び、式典に出席すると宣伝していた。結局、北朝鮮から参加したのは金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長だった。

 こうした苦い経験があるものの、今の北朝鮮は後ろ盾とされる中国ですら公然と批判するようになっている。ロシアはこれまでも食糧支援などを断続的に実施し、北朝鮮とのパイプ自体は残している。国際的孤立を深める北朝鮮に融和の手をさしのべ、中国を含めた他国との違いを際立たせれば、北朝鮮への影響力を多少なりとも高められると踏んでいるようだ。

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