「ロシア抜き」を専門家は全力で否定

 北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返し、米国との軍事的緊張が高まっていた半島情勢は今年1月、金委員長が新年の辞で韓国・平昌冬季五輪に北朝鮮選手団を参加させる意向を示したことをきっかけに一変した。韓国は北朝鮮の五輪参加を巡る協議を南北の政治対話に発展させ、南北首脳会談の実現に結びつけた。さらに韓国の仲介で、史上初の米朝首脳会談の開催も決まった。

 もちろん、国際的な制裁圧力の緩和を望む北朝鮮が、南北融和に前向きな韓国の文政権を使って米朝首脳会談の実現を画策したとみることもできる。いずれにせよ、北朝鮮が米国のトランプ大統領との首脳会談を最も重視しているのは間違いないが、金委員長はそれに先駆けて3月末、中国を電撃訪問して習近平国家主席と会談し、世界を驚かせた。金委員長は5月7~8日にも再び訪中し、大連で習主席と会談した。

 金委員長にとっては一連の首脳会談の先駆けとして訪中し、経済的なつながりが深い中国への外交的配慮を示すとともに、中国という「後ろ盾」の存在をアピールして米朝首脳会談を優位に進める思惑なのだろう。一方の中国も米韓主導で進み始めた半島の非核化や平和構築に自ら積極関与する姿勢を誇示し、国際的なメンツを保ったことになる。

 これに対してロシアはどうか。北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相が国際会議出席を目的とした外遊に合わせてモスクワに立ち寄り、4月10日にラブロフ外相と会談した。ただ、金委員長の訪ロ、またはプーチン大統領の訪朝という首脳間の対話の可能性については「話し合わなかった」(ラブロフ外相)という。

 ラブロフ外相は「両首脳は定期的に親書を交換している」としており、金委員長の訪ロなどが水面下で検討されている可能性は完全には否定できないものの、現時点で公になっているのは、ロシア外相が平壌訪問の招請を受け入れたということぐらいだ。

 それだけにロシアでは、「置き去り」への懸念が根強い。ロシアの主要経済紙「コメルサント」は南北首脳会談に関する記事で、板門店宣言では半島の平和定着に向けて、南北が国防当局者の定期協議や米中も参加する多国間協議の推進を計画していると触れた部分に、あえて「ロシア抜きで」と注記した。

 専門家は「置き去り」論に強く反発している。

 「我が国(ロシア)は朝鮮半島の問題解決のプロセスから抜け落ちているのではないですか」。南北首脳会談を受けたタス通信の質問に対して、ロシア外務省のモルグロフ次官は「これ(平和定着)は朝鮮戦争に直接参加した当事者の問題だ」と反論。「ソ連は朝鮮戦争に参加しておらず、(休戦)協定の交渉にも加わっていない」と指摘し、南北が半島の平和体制構築に向け、朝鮮戦争の休戦協定に署名した米国や中国を加えた3カ国、ないしは4カ国協議の開催を推進するのは当たり前だとの立場を強調した。

 一方でモルグロフ次官は、中ロ両国が北朝鮮問題の平和的解決への工程表を示した共同声明をとりまとめている点も強調。将来的に関係国が朝鮮半島や北東アジアの平和と安定の問題を話し合うようになれば、ロシアも参加する6カ国協議の枠組みが不可欠になるとの見方を示した。

 次官が指摘した中ロの共同声明は2017年7月、習近平国家主席が訪ロした際にとりまとめたものだ。核を含めた北朝鮮問題の「対話と調整による平和的解決」を掲げ、北朝鮮には核・ミサイル開発の凍結、米国には米韓合同軍事演習の中止を同時に実施するよう求めた。南北の直接対話や協力を支持する立場も明記した。中ロは南北首脳会談を含めた現実の流れについて、「まさに共同声明の工程表に沿って進んでいる」(ラブロフ外相)と自負している。