領土交渉をめぐるハードルが低くなるとは限らない

 その意味で、安倍首相が「8項目の協力プラン」を提示したことは、大統領の関心をくすぐる格好の演出になったといえそうだ。エネルギー開発、医療、原子力・情報技術(IT)、都市づくり、中小企業など8項目の協力を掲げたプランを大統領は歓迎し、具体化の作業を進めるよう求めたという。

 孤立脱却、対中、そして経済協力――。ロシアの期待に見事に応えた首相のソチ訪問は、ウクライナ危機で冷え込んだ日ロ関係を再構築するきっかけになったことは間違いない。ただし、これが北方領土問題を含めた平和条約締結交渉の加速につながる保証はない。今月中旬にはさっそく、トルトネフ副首相が来日する。くだんの「8項目プラン」にはロシア極東地域の産業新興協力が含まれており、日本側の本気度が試されるだろう。

 プーチン大統領が9月にウラジオストクで開く東方経済フォーラムに安倍首相を招待したのも、頻繁な首脳対話に執心する首相の心をくすぐりつつ、極東での経済協力の具体的な〝果実〟を暗に求めたともいえる。さらに、仮にロシア側の要求に満足するような対応を日本側が示したにせよ、領土交渉をめぐるハードルが低くなるとは必ずしもいえない。

 過去のプーチン語録をひとつ、最後に紹介したい。「人道、文化、経済の絆が強まれば、もちろん環境づくりにはつながる。しかし、経済、人道、文化交流の見返りに、領土交渉の立場を軟化させるという取引はすべきではない」。06年9月、大統領と各国の有識者による国際会合「ヴァルダイ会議」での発言だ。

 百戦錬磨の外交経験をもつプーチン大統領が、手ごわい相手であることを忘れてはならない。

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