「新アプローチ」の背景に中国の影

 「日本はアジア太平洋地域の重要なパートナー」とするプーチン大統領の発言が単なる外交辞令でなく本音とみられるのは、こうした背景がある。今回、安倍首相は北方領土問題を含む平和条約締結交渉を「新たな発想に基づくアプローチ」で加速しようと提案し、プーチン大統領の同意を得た。

 この新アプローチについて日本側は、グローバルな視点を考慮したものとしている。中国の海洋進出や軍事的台頭を踏まえれば、中国とどう付き合うかは日本の安全保障にとっても重要だ。新アプローチの中に中国ファクターを踏まえた日ロ協力の視点が含まれる、とみるのが自然だろう。

 そして3つ目が日ロの経済協力だ。「経済が最も重要だ」。プーチン大統領は会談で昨年の日ロの貿易額が210億ドルにとどまり、前年比で30%も減少したとする一方で、ロシアで活動する日本企業が約270社に上ると指摘。具体的なビジネス案件も挙げて、日本の企業進出を歓迎したという。

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 大統領はもともと、経済協力の具体的な数字を挙げて2国間関係のバロメーターにし、将来の関係発展につなげようとする思惑が強い。とりわけ近年は、原油安と欧米の経済制裁の影響でロシア経済は低迷している。経済大国の日本の首相との会談で経済協力に弾みをつけ、停滞する極東開発の活性化などにつなげたいとの思いは強かっただろう。

 現に大統領は日ロ首脳会談の2日前、極東開発を担当するトルトネフ副首相、ガルシカ極東発展相をクレムリンに呼び、開発の進展状況を聴取している。さらに当日の首脳会談にはラブロフ外相のほか、ウリュカエフ経済発展相、マントゥロフ産業貿易相、ノバク・エネルギー相やロシア最大の国営石油会社「ロスネフチ」のセチン社長を同席させた。

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