15年3月、伊首相訪ロ以来の画期的な出来事
では大統領が安倍首相のソチ訪問をここまで歓待したのはなぜか。大きく3つの理由を挙げられるだろう。1つ目は国際的な孤立からの脱却だ。
安倍首相の訪ロは2014年2月、冬季五輪開会式への出席をかねた首脳会談のため、ソチを訪問して以来となる。ところが今回、首脳会談に同席したラブロフ外相は終了後のメディア向けブリーフィングで、「安倍首相が13年4月にロシア(モスクワ)を訪問して以降、初めてとなる本格形式の訪問となった」と強調した。五輪の開会式や国際会議の場を利用した首脳会談とは質が全く異なるというわけだ。なぜ、そこまでこだわるのか。
ロシアと西側諸国との関係は14年以降、急速に悪化した。同年春、ロシアがウクライナ領のクリミア半島を併合し、同国東部にも軍事侵攻したためだ。日米欧はロシアが国際秩序を乱したとして主要8カ国(G8)の枠組みから除外し、厳しい経済制裁も科した。当然、西側との首脳外交も大きく停滞した。
もちろん、ウクライナ危機後も訪ロする外国の首脳はいたが、こと主要7カ国(G7)に限れば、もともとロシアと関係が深いイタリアのレンツィ首相が15年3月にモスクワを訪問したぐらいだ。G8の枠組みから外されたロシアは、西側主要国との首脳外交の面でも相当な孤立感を味わっていたといえるだろう。
確かに、危機後にドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領がロシアを訪問した経緯はあるが、ウクライナ危機の収拾策の協議や記念行事への出席が目的で、2国間関係の発展のために特別、訪れたわけではない。ラブロフ外相が重視する「本格形式の訪問」という意味で、ロシアにとって安倍首相の訪問は、伊首相の訪ロ以来の画期的な出来事となったわけだ。
米国の影響力の限界を誇示できたロシア
ラブロフ外相は1月の記者会見で、日ロの外交分野での緊密な協力を訴えるとともに、外交政策で「米国の立場を100%追随する」のではなく、「より自立した日本をみてみたい」と述べていた。その日本が米国の否定的な反応にもかかわらず、首相の訪ロを断行した。ロシアにとっては、米国の影響力の限界を誇示する面でも意義があったわけだ。
「日本の友人たちは米国をはじめとするパートナーたちの圧力にもかかわらず、(日ロ)関係を維持しようと努めている」。プーチン大統領が首脳会談に先立って語った言葉は、それを如実に示している。しかも、日本は今年のG7の議長国だ。ロシアもさすがに対ロ制裁緩和のきっかけになるとは期待していないが、少なくともウクライナ危機をめぐるG7の対ロ包囲網の弱まりを内外にアピールできたとみているようだ
2つ目の理由は中国との絡みだ。ロシアはウクライナ危機後の国際的孤立のなかで、対中傾斜を一段と強めた。中ロは実際、両国首脳が戦勝70周年の記念行事に互いに出席したり、東シベリアの天然ガスを長距離のパイプラインを建設して中国に大量供給する〝世紀のディール〟に調印したりするなど、その蜜月ぶりが国際社会でも話題になった。
ロシアは当初、とくに経済面では欧米の経済制裁による打撃を中国が完全に穴埋めしてくれると期待していたと、多くの専門家が指摘する。ところが中国はそんなロシアを「ジュニア・パートナー」とみなし、ロシア市場での独占的な地位を利用して無理難題を押しつけたり、契約の履行を渋ったりするケースもみられるようになったという。
ロシアにとって中国は国別で最大の貿易相手国ではあるが、昨年の貿易額は前年比でおよそ3割も減少した。ロシアの外交評論家フョードル・ルキヤノフ氏は「ロシアの政権は中国に前向きな発言は続けているが、対中依存の比重を減らすべくアジア外交のバランスをとろうとしている」と分析する。
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