財閥経営者も制裁対象になった理由

 米財務省はプーチン政権が「オリガルヒや政界エリートの利益を過度に重視した政策を行っている」と指摘。オリガルヒらはそれによって巨万の富を築き、資金の一部がアサド政権への軍事支援など、ロシアの「悪意ある行動」に利用されていると批判した。

 デリパスカ氏については、「私自身は国家と切り離すことはできない」と自ら公言しており、ロシアの外交旅券の保有も認めていると強調。さらに同氏はマネーロンダリング(資金洗浄)、ビジネスライバルへの脅迫、政府高官に対する不法な盗聴などの嫌疑がかけられているほか、政府高官への贈賄、ビジネスマンに対する殺人依頼、暴力犯罪組織(マフィア)とのつながりなどの疑惑も取り沙汰されていると指摘している。

 トランプ大統領は昨年8月、議会の上下両院で採択された対ロ制裁強化法に署名した。これを受けて米財務省は今年1月末には、プーチン大統領に近い人物を列挙した「クレムリン・リスト」を公表している。リストはロシアの各省庁の閣僚、大統領府幹部を含めた政府高官や国営企業経営者114人と、大手新興財閥など大富豪の実業家96人の合計210人を列挙していた。

 米財務省は当時、クレムリン・リストは「制裁リストではない」と強調していた。だが今回、デリパスカ氏やヴェクセルベルグ氏らを制裁対象としたことで、「クレムリン・リスト」に載っている誰もがある日突然、新たな制裁対象となり得ることも暗示した。海外企業などがこうした実業家との取引を控える傾向は今後さらに強まるとみられ、ロシアに与える経済的、心理的な打撃はかなり大きいと言えそうだ。

 米政府がデリパスカ氏とその傘下企業の「ルサール」を制裁対象としたことは、国際的にも大きな波紋を広げている。米国による二次制裁を恐れて、世界の多くの企業がルサール社製アルミの調達を停止。ロンドン金属取引所(LME)や米国のシカゴ・マーカンタイル取引所も同社製アルミの取り扱いをやめ、アルミの国際価格が急上昇した。

 ルサールとの取引が多いドイツやフランスなどでは、制裁の適用除外を求める声も強まった。予想外の影響に慌てた米財務省は、米企業とルサールとの取引停止の期限を今秋まで延期したほか、デリパスカ氏との関係が切れれば同社を制裁リストから外す可能性も示唆した。とはいえ国際的な市場混乱は当面、避けられそうにない。

 ロシア国内でもルサールを中心に制裁対象企業の株式が急落。通貨ルーブルの下落にも拍車がかかるなど、影響が広がっている。政府系世論調査会社の全ロシア世論調査センターが直近で実施した調査でも、米ドルやユーロに対してルーブルが下落している理由について、回答者の23%が「対ロ制裁」の影響だと分析している。

 ロシアではすでに、米国の制裁対象となったロシア企業を政府が全面支援すべきだとの意見が広がっている。マントゥロフ産業貿易相は「我々はさらなる支援をしていく」と表明。制裁対象企業からの国家調達を増やす案などを検討していく方針を明らかにした。さらに極端な方策として、ルサールなどの一時的な国営化案も浮上している。ペスコフ大統領報道官によれば「制裁対象企業に対する支援策のひとつとして提案されている」という。