政権の監修が色濃い番組とされているだけに、今回、日ロ関係者の間で様々な臆測を呼んだ場面がある。モスクワのスタジオと極東のサハリン州を中継で結び、大統領と地元の市民が直接やりとりした次の部分である。

タチヤーナ:「私たちは昨秋、色丹島の魚加工工場で働きましたが、給料を支払ってくれません。人材派遣業者がだましてあの島に連れて行っています。労働条件も生活も悲惨です。人々はホームレス状態です。助けてください」

エレーナ:「あそこは島で周りは海ばかりです。逃げ出せないし、お金もない」

大統領:「何ということだ。言葉もみつからない。それ(賃金の不払い)は昨年の話ですか。あるいはもっと長期間にわたってですか?」……。

 大統領は謝罪し、番組の中で連邦検事局などに迅速な対応を指示した。さらに、これは後日談だが、さっそく連邦検事局の副検事総長、サハリン州知事、サハリン州検事、連邦労働雇用庁幹部らがこぞって色丹島入りして調査に乗り出し、工場側も未払い賃金の全額支払いを約束したという。

 給料の遅配、不払い問題は例年、市民が寄せる質問の“定番”のひとつだ。臆測を呼んでいるのはなぜ今回、北方四島の色丹島の現状をとりあげたのかだ。

 「色丹島もロシア領と日本に認識させるのが狙いだ」「いやいや、厳しい現状を国民に知らしめ、日本への将来の引き渡しの布石とした」……。いろいろな解釈が可能だが、大統領は番組では、日本との関係について一切触れていない。

 折から5月初めには、安倍晋三首相の訪ロが予定される。プーチン大統領もこの番組終了後に記者団の質問に答え、米国の圧力にもかかわらず訪ロする首相を「歓迎する」とした。北方領土交渉の行方にも触れ、「妥協はいつか見いだせるのではないか」と述べた。それだけになおさら、番組で色丹島を取り上げたのは、日本を意識したのではないかという疑心を生んでいるわけだ。

1956年日ソ共同宣言の重視を改めて主張

 意図的か偶然か、日本を意識したかしないかは別にして、客観的に言えることは、ロシアの隅々にまで気を配るプーチン大統領の姿を国民に誇示するため、色丹島の未払い問題が取り上げられたということだ。

 もちろん、大統領は日本が帰属問題の解決を求めている北方四島の一つと認識しているはずだ。一方で、番組をみた国民の多くは、日本と係争中の島という認識は全くないまま、すぐに忘れてしまうかどうかは別にして、「色丹」という島が極東の最果てにあることをなんとなく知ったということなのだろう。

 プーチン大統領はちょうど3年前、モスクワで開いた安倍首相との日ロ首脳会談後の記者会見でこんな発言をしている。北方領土で外国企業も参加してインフラ開発が進む現状に苦言を呈した日本側記者の質問に対し、怒りをこらえながら「これらの領土には他と同様にロシアの人々が住んでいる。我々が彼らのことを思い、彼らの生活を考えるのは当然だ」と答えたのだ。今回の番組で色丹島が取り上げられたのも、こんな文脈の延長なのだろう。

 では、肝心の北方領土交渉の行方はどうなるのか。