ロシアと米欧の対決ムードはW杯後に本格化か

 ちなみにリトビネンコ氏の毒殺事件は、ロシアでも大きく報じられた。ロシアの独立系世論調査会社のレバダ・センターは折に触れ、「リトビネンコ氏の暗殺にロシアの特殊機関が関与したと思うか」という設問で世論調査を実施している。2016年9月の調査では「そう思う」が28%、「そうは思わない」が36%だった。当のロシア国内でも、FSBの犯行ではないかと疑う人々が相当数いることは留意すべきだろう。

 英国ではリトビネンコ氏の後見人で、同じくプーチン政権批判の急先鋒(せんぽう)だったロシアの政商、ボリス・ベレゾフスキー氏が2013年、ロンドン郊外の自宅で死亡しているのが見つかった。警察当局は首つり自殺と判断した。

 ところが今月、アエロフロート・ロシア航空の元幹部でベレゾフスキー氏の友人だったニコライ・グルシコフ氏が、ロンドン郊外の自宅で死亡しているのが発見された。警察当局は首を絞められたような跡があることから、今度は殺人事件とみて捜査に乗り出している。メイ首相が疑心を強めるように、英国に亡命したロシア人の変死事件が相次いでいるのは事実だろう。

 今後、ロシアにとって大きな痛手となりかねないのは、英国が他の米欧諸国や北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)などに同調を呼びかけ、今回の暗殺未遂事件を欧州全体の安全保障にかかわる深刻な国際問題とし、プーチン政権への攻撃を一気に強めようとしていることだ。

 現に英国、米国、ドイツ、フランスの4カ国首脳は15日、「欧州が戦後初めて神経剤で攻撃された」とし、「ロシアに責任がある可能性が非常に高いという英国の分析を共有する」とする共同声明を発表している。

 対するプーチン大統領の反応はどうか。再選確定後の記者団との会見で、ロシア大統領選の最中でサッカーのW杯も控えているのに、ロシアが暗殺未遂事件に関与したと疑うのは「全く馬鹿げており、ナンセンスだ」と大統領は述べている。この発言から察すると、6~7月に開くW杯ロシア大会の終了までは、米欧との対決ムードを極度にあおらないよう努める構えのようだ。米欧との「新冷戦」は、W杯後にいよいよ本格化するのかもしれない。