今月前半に予定されていたモスクワ訪問も見送り

 ベラルーシはかつて、ロシアによるクリミア併合を支持した数少ない国のひとつだ。2014年3月、国連総会で「ウクライナの領土一体性」に関する決議を採決した時も、ロシアを除く旧ソ連諸国で「反対」した国はアルメニアとベラルーシだけだった。

 ただし、ウクライナ危機にはかなり神経をとがらせており、ドイツとフランスが仲介した停戦協議の場を提供したこともある。もちろん、ロシアが発動した欧米からの食料品禁輸措置には否定的で、しかも自国に「多大な損失」を与えているとすれば、大統領として黙っていられなかったのだろう。

 ルカシェンコ大統領はこうした一連のロシアの措置に善処が見られない限り、プーチン大統領と会談しても「意味がない」として、国際会議の場を含めた両国の首脳会談を拒否する構えだ。現に昨年末にサンクトペテルブルクで開いたユーラシア経済同盟の首脳会議は欠席し、今月前半に予定されたモスクワ訪問も見送られた。

 ベラルーシ大統領の尋常でない「憤り」に慌てたのがロシアだ。ロシア大統領府はルカシェンコ大統領のマラソン会見があった当日、さっそく両国関係に関する異例のコメントを発表した。

 ロシアはベラルーシとの統合プロセスの継続を優先課題とみなしている――。コメントは両国関係の重要性を強調するとともに、経済問題は実務協議を通じて冷静に解決すべきだと指摘。「国境ゾーン」の設置も第三国の市民を対象にしたもので、国境管理を導入する意図は毛頭ないと弁明した。

 一方で、エネルギー問題に関しては、「ロシアは2011年から2015年にかけ、毎年1800万~2300万トンもの原油を関税ゼロでベラルーシに供給してきた」と言明。それに伴うロシアの歳入減は223億ドルに上ったと具体的数字を挙げ、いかに多額の支援をベラルーシに施しているかを訴えた。

 所詮、ロシアの支援抜きには国家経済が成り立たないのに、あれこれ文句をつけるとは何事か。ロシア大統領府のコメントからは、そんな不満もにじみでているようにもみえる。

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